地理を知らないと困ること
先日、「A街からB街へ行かうとしてC街へ行つてしまつたんですよ」と話してゐる女性がゐた。
同じ職場でちがふ会社から来てゐる若い人だが、とてもてきぱきした態度で仕事ができる。
A街とB街は電車で一駅、歩いてもおそらく二十分あるかどうかである。B街とC街はまつたく逆方向だ。
どうもこの女性はA街付近の地理に疎かつたらしく、同行の人も「A街の隣駅からだつたらB街への行き方がわかる」といふので、まづは隣駅、すなはちB街から遠ざかる方へ電車で向かつたといふのだ。
これを聞いて、「ああ、おそらくこの人と同行の人は別の市あるいは都道府県から来た人なんだらうなあ」と思つた。A街もB街も趣はちがふがこのあたりでは若人の集ふ街として有名なところだ。その地理感がないといふことは、よそから来た人なのだらうと推測してもなんらふしぎではない。
だが、どうやらさうではないらしいことが本日判明した。
件の女性は、仕事のできるはきはきした女性は、どうやら地理に疎いらしいのである。
聞くともなしに聞いてゐると、件の女性と同じ会社から来てゐる人が明日は法事でお休みなのださうである。その法事でお休みの人のゐない時に、さらに別の件の女性の上司が、「福井なんだつて」と云つてゐた。
すると件の女性、「福井つて云はれても……」ともごもご云つてゐる。ふだんの歯切れのよさからは考へられないやうなもごもごぶりだ。
すると、上司の人は慣れてゐるのだらう、手帳についてゐる地図を示し乍ら、
「これが福井。これが京都でこれが滋賀」
と教へはじめた。
「えー、福井つてこんなところなんですかー」
とか
「京都つて結構奥(日本海側までつてこと?)まであるんですねー」
とか
「あたし、新潟つてもつとこつちの方かと思つてました」
とか、感想を述べる件の女性。
これをして、バカにするのはたやすい。
しかし世の中の人は案外かうしたものな気がする。
ところが、地理を知らないと困ることがあるのだ。
たとへば、初対面の人に出身地をきいた場合である。
先日、とある人がこぼしてゐた。
「下関なんですよつて云ふと、「九州なんですか」とか「四国から大変ですね」つて云はれるんですよ」
と。
御存知下関は山口県。中には下関と門司がごつちやになるといふ人もゐるが、それくらゐはご愛嬌といふものだらう。
気にしない人はいい。だが、大抵の人は自分の出身地をまちがへられたらむつとするのではないか。
さう、地理を知らないと他人に不快感を与へる可能性がとても高いのだ。
こんな時に競馬競輪競艇オートレースが役に立つ……時もある、といふのはまた別の話か(笑)。
……それにしても不思議である。広辞苑をひくと、競馬競輪はそれなりに詳しく書いてあるものの、競艇は「モーターボートの競争」、オートレースは「オートバイ、自動車などの競争」としか書いてゐない。
いや、まあそのとほりだけどさ。
なんだかちよつとさみしかつた。
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