雅楽之助
『傾城反魂香』又の名を「吃又」(といふ名前のくだりを云々し出すと長いのでここではとりあへずこのまま)に、狩野雅楽之助といふ役がある。
いはゆる注進の役で、芝居の中盤、花道から駆けてきて戦場のやうすを物語し、また花道を駆けて戦場に戻つて行くといふ役どころだ。
いまの中村又五郎が中村歌昇と名乗つてゐたころ演じたのを何度か見てゐる。
勇壮で、最後花道で決まつた姿のよさに惚れ惚れしたものだつた。子どもの時見てゐたら絶対真似したらうなといふかつこよさである。
雅楽之助といふと、さうした勇壮なイメージが強いやうに思ふのだが、又五郎の兄・中村歌六が演じたときは違つた。
確か三代目猿之助の吃又だつたと記憶する。
歌六の雅楽之助は、手負ひの色気がシケから滴るやうな雅楽之助だつた。
爾来、さういふ雅楽之助が見たいと常々思つてゐたのだが、どうもやはり世の中の主流といふか、本来雅楽之助といふ役は勇ましいものなのらしいとあきらめてゐたのである。
当月浅草公会堂でこの演目がかかり、雅楽之助を市川染五郎が演じると聞いて、もしかしたら手負ひの色気再び、と期待しなかつたといつたら嘘になる。
が。
染五郎の雅楽之助は、「え、シケ、ある?(ありました)」といふ具合で、どうやらあまり手負ひつぽくない。
この仁、案外陽気な性分なのかもしれない、と思つた次第。
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