ひとりぢやない、かもしれない
文学刑事サーズデイ・ネクスト・シリーズの第一巻『ジェイン・エアを探せ』を読み返しはじめたところ、冒頭からいきなりドクター・フーだつた。
考へてみたらサーズデイのお父さんは時をかけるパパなのだつた。
さらに考へてみると、ドクター・フーを見てみやうと思つたきつかけはサーズデイ・ネクストはじめジャスパー・フォードの作品にあることに思ひ至つた。
それと、去年読んでおもしろかつたD.A.HoldsworthのHow to Buy a Planetもさうだ。
見たことはないけれど、どちらにもドクター・フーや『銀河ヒッチハイクガイド』の影響があるんではないかと思つて去年の暮れからドクター・フーを見初めて、今年に入つてから『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズを読み始めたのだつた。
ドクター・フーの方はいま見られるのが新しいシリーズなのでサーズデイ・ネクストなどにどれくらゐ影響があるかといふと実はないよね、といつたところなのだが、『銀河ヒッチハイクガイド』の方は「もしかしたらこのクリケットのくだりはサーズデイのあのくだりに……」とか「この宇宙人の感じは『惑星の買ひ方』のそのくだりに……」と思ふところはあつた。
さうなんだよね、ドクター・フーは昔の、それこそダグラス・アダムスが脚本を書いてゐたころのシリーズはなかなか見られないのだ。
でもちよつと思つたんだけれども、サーズデイ・ネクストもさうだがジャスパー・フォード作品に共通する登場人物がとてもつらい目に遭ふといふのなんかはいま見られるドクター・フーにも共通してゐる。
まードクター・フー、つらい展開多いよね。
このところ見返してゐる11thドクターのシーズン6なんかもーつらいのつらくないのつて。
# さうです、"A Good Man Goes to War"を見たところです。
ところでサーズデイ・ネクストを読み返してゐて思ひ出したのは、この話が好きなのはなんかいろいろつまつてゐるからといふことだ。
文学刑事サーズデイ・ネクストは、まづディケンズ直筆の小説が盗まれた事件を追ふことになる。
ところがそれはサーズデイが大学に通つてゐたころの講師で悪人のアケロン・ヘイデスとつながつてゐる。
アケロンとの戦ひすんで死ぬ目にあつたサーズデイは、『ジェイン・エア』のロチェスターに助けられたことをぼんやりと思ひ出す。
サーズデイは子どもの時につれて行かれたジェイン・エアの博物館で、『ジェイン・エア』の物語世界に入り込んだことがあつて、そこでロチェスターに会つてゐる。
実はサーズデイの世界では『ジェイン・エア』は違ふ終はり方をしてゐて、それが不評だつたりする。
また、サーズデイの世界ではまだクリミア戦争が続いてゐて、時は1985年なのだがロシアは帝国だ。
そして世の中には飛行船が飛んでゐて、まだ読み返してゐるあたりには出てこないが外国に行くにはなんだつたかチューブのやうなものを通つて行くんだつた気がする。
え、なにを云つてゐるの、と思ふかもしれないが、さういふ現実に似た並行世界的な世界観で、タイムトラヴェルは出てくるしサーズデイは物語世界と行き来できたりするし、とても楽しい。
なんとなく、歌舞伎に似てゐるなとも思ふ。
ここでいふ歌舞伎といふのは江戸時代のある時期に作られた作品のことだ。
たとへば『東海道四谷怪談』は『仮名手本忠臣蔵』の世界に四ツ谷であつた怪談を取り込んだ話である、とか。
今年前半大いにもりあがつた『桜姫東文章』は能の『隅田川』の世界に清玄ものの趣向を取り込んだ話である、とか。
さういふのね。
やつがれはさういふのが大好きなんだけれども、世の中の評判ではさういふ点を評価してゐるのをあまり見かけない。
あまりどころか全然見かけない。
「さういふのがおもしろいのに!」と思ふが、誰も賛同してくれない。
かつて水玉螢之丞が「オタクは引用好き」といつてゐた。
さういふ意味ではやつがれはオタクなのかもしれない。
いや、違ふな。
オタクが好きなものが好きなのだ。
残念ながら知力体力好奇心に欠けてゐるのでオタクになれないんだよね。
飽きつぽいしね。
そんなわけで孤独に歌舞伎を愛してるが、サーズデイ・ネクストのことを考へると世の中にはかういふのが好きな人がたくさんゐるんではないかといふ気もする。
とはいへ、やつがれと同じ理由でサーズデイが好きなわけぢやないかもしれないか。
ジャスパー・フォードはラスト・ドラゴンスレイヤー以外のシリーズは結構好きなんだけどなあ。
サーズデイ・ネクスト・シリーズのスピンアウトであるナーサリー・クライム・シリーズも好きだ。Shades of Greyは続きが出るらしいと聞いてゐるし、シリーズではないけれどEarly Riserもおもしろかつた。
さういやまだ最新刊を読んでゐないや。
世界には楽しいことがたくさんある。
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