新型コロナウィルスのワクチン大規模接種会場で、「消せるボールペン」のことが話題になつてゐると聞いた。
もしかしたらワクチン接種の会場ではどこでも困つてゐるのかもしれない。
フリクションといふその手のボールペンは、2本ほど持つてはゐる。
いづれもとある文房具店でもらひ受けたものだ。
お店の人は親切に「フランスで大人気」と教へてくれた。
しかし、残念ながら「フランスで大人気」といふことばはやつがれの心には響かない。
エルバンのヴィオレパンセといふインクがかつてはフランスの学校で使はれてゐたといふのはちよつと響く。
実際、手持ちの万年筆にもこのインクを入れてゐて、日々使つてゐる。
ファッション関連では「フランスで大人気」は大方の人に響くのだらう。
最近はさうでもないのかな。
文房具はどうだらう。
「フランスで大人気」はやはり重要なのだらうか。
フランスの文房具……さうだなあ。クレール・フォンテーンのノートは好きだなあ。
サイズと罫線種類とが自分の好みにぴたりと合ふものとなかなか出会ふことがないのでいまは使つてゐないが、合ふものがあつたらほしいし使ひたいノートだ。
エルバンのインクについては書いたとほりヴィオレパンセを愛用してゐる。
ウォーターマンのクルトゥールライトとクルトゥールは使つてゐる。金ペン堂で求めたモンブランのマイスターシュテックにはウォーターマンのブルーブラックが入つてゐる。お店のおすすめだつたからだ。
ほかは残念ながらわからない。
あまり舶来趣味がないこともあるし、そもそも自分には分不相応といふ思ひもある。
ただ一つ云へることは、フリクションの人気は「フランスで大人気」だからではないだらう。
その証拠にフリクションをくれた文房具店以外で「フリクションはフランスで大人気」といふ話を聞いたことがないからだ。
フリクションは、さうでなくても人気がある。
それはわかつてゐる。
だがなんで人気があるのかわからない。
消したいのなら、または消す必要があるかもしれないなら、鉛筆で書けば済むことだ。
間違へたら消しゴムを出してきて消す。そして書きなほす。
それでいいではないか。
なぜボールペンにその機能が必要なのかが解せない。
だいたいボールペンといふのは書いた文字が消へたら困る状況で使用する筆記用具ではないのか。
以前はその役割は万年筆が担つてゐたのだらうが、いつのまにかボールペンがその座を占めるやうになつて久しい。
実際、葬儀に必要な書類に記入する際、古典ブルーブラックインクの入つた万年筆を使つてゐたら、「ここは黒字でお願ひします」と云はれ、黒インクの入つた万年筆を取りださうとしたら「ボールペンで」と云はれたことがあるくらゐだ。もしかすると複写式の書類だつたのかもしれないがそこのところは忘れてしまつた。だいたい葬儀用の書類に記入する時といふのは常の精神状態になかつたりするしね。
間違へたらそれがわからないやうに訂正したいとか訂正しても大丈夫な場合で、しかも書いたものが消へてもいいことといふのはそんなにあるだらうか。
たとへば学校で使ふノートなどもボールペンで書いた方がいいといふ説もある。
書き間違へた部分はそれとわかるやうに残しておいた方が学習上いいといふのだ。
それには一理ある気はする。
受験勉強をしてゐるときはボールペンを使つてゐた。
ペンを使ひ切ると勉強した気になるからだ。
えんぴつだとなかなか使ひ終はらないし、シャープペンシルの芯を使ひ切つてもそれとわからないことがある。
そこいくとボールペンなら適当な時点で使ひ切るし、使ひ切つたことも明瞭にわかる。
書き損じた部分は仕方ないそのまま残してゐたが、それもよかつたのかなあ。この点についてはチトわからないし自分は懐疑派だ。
そんなわけで、人がどういふ時にフリクションを使つてゐるのかがよくわからない。
消へたら困るものなんて世の中にはそんなに存在しないといふことか。
手帳に予定を書き留めて、それが消へてもたいした問題ぢやないのか。
さうなのかもしれない。
世の中に生まれ出たものはいづれ消へ去る。
さうしたはかなさを、フリクションは表現してゐるのかもしれない。
だが、いづれにしてもやつがれはボールペンにさうした機能は求めてゐない。
ボールペンにはボールペンらしくあつてほしい。
そもそもすこし前まではボールペンがあまり好きではなかつた。
ペンの持ち方が妙だからだらう、書いてゐるうちにどんどんペンが手の向かう側に倒れていく。
書きづらいとは思はないが、あまり書きやすいとも云へない。
そんなだからペン先が紙に当たる角度も妙なのだらう、書き出しがかすれたりだまになつたりすることが多くて閉口することが多かつた。
数年前、S.T.DupontのJet8といふボールペンに出会つてすこしボールペンへの見方が変はつた。
Jet8は流線型で軸の色の展開が鮮やかでどれもくつきりしてゐる。
そんなわけであんまり「これ!」といふ色がなかつたが、空色を愛用してゐる。
このペン、自然と正しいペンの持ち方(多分)ができるのもいいんだよね。
# あ、これもフランス製?
その後、カランダッシュのネスプレッソのゴミをリサイクルしたボールペンも気に入つて使つてゐるし、三菱鉛筆uniのJETSTREAM Edgeの筆圧をかけずに書けるところにも惹かれてゐる。
油性ボールペンはそんなところかな。この3本はどれも気に入つてはゐるけれど、どうも書いたときの描線があまり好きになれない。なんといふか、途切れてゐる気がするんだよね。そんなのどうでもいいぢやんと思ふけれど、なんだかあまりうつくしくない気がする。
ジェルボールペンでいくと、三菱鉛筆はuni-ball oneがとても好きで、あとサクラクレパスのBallsign iDが最近のお気に入りだ。
uni-ball oneのいいところは、インクのにぢみや裏抜けがあまりないことだ。色の展開はあまり好みではない。赤と緑にもうちよつと微妙な色合ひがあるといいとは以前も書いたとほりだ。
そこは季節ごとに販売される特別色で補完されるのかもしれないけれど、さういふ特別色つて売り切つたらもう手に入らないだらうのが困るんだよなあ。
フランボワーズとか、とても好きなんだけれども、この前やつと売れ残つてゐるのを見かけたくらゐでその後手に入りさうにない。
Ballsign iDは黒のヴァリエーションが多くて、やはりインクのにぢみや裏抜けがあまりない。0.4mmなのに0.38mmのuni-ball oneより細く書ける気がする。そこもいい。
これら気に入つてゐるボールペンで書いた文字が消せたらいいだらうか?
いいなと思ふときもある。
年賀状を書いてゐるときなどはさうかもしれない。
親しい人への手紙なら書き損じのひとつやふたつはご愛嬌ぢやあるまいか。
いづれにせよ、気温だ湿度だで消へてしまふよりはずつといい。
消したいときは鉛筆の出番。
さう思ふんだけどなあ。
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