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Friday, 07 May 2021

いまさら2.5次元考

いまさらながら2.5次元について考へてゐる。
管見ながら、「2.5次元」といふのは、まんがやアニメといつた二次元の原作を実在の俳優の演じる作品にしたもののことだと理解してゐる。
原作は小説の場合もあるだらうが、見たところまんがやアニメにあるやうな挿し絵のついてゐるものが多いのではないかといふ印象がある。
作品にはミュージカルが多い気がするが、さうでないものもある。

ずつとさういふものだと思つてゐて、とくにミュージカルはMGMが好きでそこからupdateできない自分には縁のないものだとずつと思つてゐた。
2015年にとある講義を聞くまでは。

2015年、渋谷ヒカリエで明治大学教授(当時)・加藤徹による「芝居の中の三国志」といふ講義があつた。
渋谷ヒカリエには川本喜八郎人形ギャラリーがあつて、渋谷区の持つてゐる三国志や平家物語の人形が展示されてゐる。
さういふ縁でこの講義も開催された。

そのときの講義によると、芝居といふものはみな2.5次元なのだ、といふことだつた。
実際にそこにある、でも実はない。
「真田十勇士」の舞台を見に行くと、そこに猿飛佐助は存在する。
でもそれはその舞台の上だけの存在で、実際には猿飛佐助は存在しない。
三次元にゐるのにゐない、さうしたものが2.5次元なのである、といふ話だつた。

当時、この話がとても腑に落ちた。
といふのも、多分自分はずつとさうした「2.5次元」が好きだつたからだ。

たとへば、自分はいはゆる「中の人」にとてもうるさいが、しかし「中の人」には興味がない。
最近でいふと、「ドクター・フー」の十一代目ドクターが好きだが、そのドクターを演じてゐるマット・スミスにはあまり興味がない。
トークショーなどに出てゐる姿を見てもピンとこないし、若き日のエジンバラ公を演じてゐる「ザ・クラウン」を見てもとくになんとも思はなかつた。

たまたま見た場面ではエジンバラ公の登場はほんのわづかであつたし、また、つひ最近まで実在した人物を演じたものだからかもしれないな、とも思はないでもない。
でもおそらく自分は俳優としてのマット・スミスが好きなわけではない。
十一代目ドクターを演じてゐるマット・スミス、いやさ、マット・スミスの演じる十一代目ドクターが好きなだけなのだ。

そんなわけで、いままで好きな俳優といふのがゐた試しがない。
いや、成田三樹夫とか岸田森とか好きだけれども、「これこれかういふ役を演じるから好き」なんだと思ふ。
そこからはづれた役はもしかしたら好きぢやないかもしれない。
それに、個人的な情報とかもとくに知りたいとは思はない。
好きな食べ物とか趣味とか、そんなことどーでもいいぢやん。
だつて自分が好きなのは画面の向かうにゐる、俳優自身ではない役を演じてゐるときのその人なんだからさ。

逆に考へてみると、好きな芝居といふものも存在しない。
『菅原伝授手習鑑』の「寺子屋」はとても好きな芝居だが、松王丸や千代、源蔵や戸浪が自分好みの配役でないとちよつと好きとは云ひきれない。
『源平布引滝』の「実盛物語」とか好きだけれども、実盛を演じる役者があの人かこの人だつたら好きだけどさうでなかつたらさうでもない。
さういふ感じ。
とつても2.5次元ぢやん。

などと云つても、本来の意味での「2.5次元」が好きな人々には通じないとは思ふんだけどさ。

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