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Friday, 02 April 2021

好き好き『本朝廿四孝』

はじめて見た文楽が『本朝廿四孝』の通しだつた。
この時は序段から大詰めまで全部上演した。
その後、また通しといふので『本朝廿四孝』を見に行つたが、このときは大詰めがなく裏庭で終はつてしまつてひどくがつかりしたものだ。
狐火で終はつた方が舞台としては盛り上がつて華やかでいいのかもしれないが、「でもぢやあ犯人は誰だつたのよ」とモヤモヤした気持ちで帰途につかねばならない。

さう、『本朝廿四孝』は、犯人探しの物語なのだ。
昨今は八重垣姫のくだりしか上演されないけれど(文楽では三年前に襲名披露として「筍掘」が上演されはしたけれど)、実ハ将軍暗殺犯を探す話なのである。

といふ話は、ここにも何度か書いた。
はじめて通しを見たときに衝撃的だつたからだ。
「これつてかういふ話だつたのね」、と。

序段で、将軍が何者かに暗殺される。
そして将軍の子をみごもつてゐた側室が別の何者かに拐かされる。
その場にゐ合わせた武田信玄と長尾景虎とは、将軍の御台所から犯人探しを仰せつかる。
期日までに犯人を捜し出せない場合は、双方の嫡子の命をもらひ受ける、と云はれて。

用心深い信玄は前々から息子を他人と取り替へてゐて、といふ話が花売り簑作と八重垣姫との話につながる。
一方の景虎の一子・景勝は自分によく似た相手を見つけて身代はりになれといふ。これが横蔵で、「筍掘」につながる。

「筍掘」は、題名ともつながつてゐる。
「二十四孝」といふのは中国の孝行者24人の逸話を集めたものだ。中に、老いて病んだ母がほしいといふので雪の中たけのこを探しに行くといふ話がある。
「本朝廿四孝」の「筍掘」はこの話を下敷きにしてゐる。

だから、この浄瑠璃で一番重要なのは横蔵・慈悲蔵兄弟の話の部分だと思ふのだが、文楽でも歌舞伎でもほとんどかからない。
わけがわからないからだといふ。
陰惨だからといふ話もある。
季節は冬、ところは信州の山の中で、地味だといふこともあるのかもしれない。
八重垣姫のくだりは舞台も派手やかだものね。

でも「筍掘」が好きなんだよなあ。
冒頭の「桔梗原の場」なんか、とくに好きだ。
ここでは高坂弾正の妻・唐織と越名弾正の妻・入江とが争ふ。
争ふといつても口での争ひだ。
口論だから、太夫の語りがおもしろい。
#おもしろいはず。
入江が「越名弾正槍弾正、高坂弾正逃げ弾正」と相手の夫を蔑むくだりとか、ほんと、最高だな、と思ふ。
よくできてゐる。

高坂弾正が逃げ弾正といはれる所以については、撤退の際の殿軍をつとめることが多くまたうまいからだといふ説があつて、さうだとしたらこんなほめ言葉はないし、槍弾正と呼ばれるよりもずつと誉れだと思ふが、ここではそれは問はない。
越名弾正は勇猛で知られてゐるが、高坂弾正は及び腰である。
それつて武士としてどうなのよ。
さういふ話なのだ。

もちろんその殿軍をつとめてうまく退くことのできるといはれた高坂弾正の方が一枚上手だつたりするわけで、それがこのあと描かれる。

ここにはいろいろな話がなひまぜになつてゐて、最初に書いた二十四孝の話もさうだし、景勝の身代はり探しもさうだし、将軍の側室の行方もあるし、甲州の軍師・山本勘助を麾下に加へたいといふ信玄・景虎の思惑もあるし、横蔵・慈悲蔵の兄弟の争ひ、そしてその実体……と、枚挙にいとまがないとはまさにこのことで、ここにすべてが集約されてゐるといつても過言ではない。

なのになぜかからないのかー。
たぶん、当世の御観客は、かういふややこしい話を好まないからなんだらうな。
「筍掘」だけ上演してもなにがなんだかさつぱりわからないし。

横蔵・慈悲蔵兄弟には老いた母がゐて、これが歌舞伎の三婆の一人にも数へられたりもするのだが。
でもかういふ「三ナントカ」つて、最初の二つは固定だけど最後の一つはその場その時によつて変はるからなあ。
三婆も『菅原伝授手習鑑』の覚寿と『近江源氏先陣館』の微妙は固定だが、最後の一人はまちまちだつたりもする。

でもおそらく、浄瑠璃でわけがわからないといはれるものについては、その話全体がわかればわかつたりもするのだらう。
「筍掘」がさうだもの。
「なんでかうなつてるの?」といふことが、見ていくうちに「ああ、さういふことだつたのか!」と次々に明らかになつていく。
中にはちやんとあらかじめ手がかりが与へられてゐるものもある。
さういふ楽しさが浄瑠璃にはあつて、さういふのが好きなんだよなあ

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