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Thursday, 18 March 2021

川本喜八郎「鬼」と音楽

3/13(日)、国立映画アーカイブの「川本喜八郎+岡本忠成 アニメーション作品上映」のうち川本喜八郎作品集を見てきた。

行く前に、Phantom Limbの企画で、川本喜八郎の「鬼」に新たな音楽をつけるといふものがあるといふことを知つた。
Youtubeに公開されてゐるサンプルや、作曲家自身がTwitterでつぶやいてゐたものを聞くことができた。
どちらも異なる演奏でおもしろく、どこかふはふはと夢の中を漂つてゐるやうな、もつといふと悪夢の中をさまよつてゐるやうな、不思議な曲で、見聞きできた範囲では映像にもあつてゐるのではないかと思ふ。

もともとの「鬼」の劇伴は鶴澤清治の作曲したもので、三味線を鶴澤清治自身、尺八を山口五郎が演奏してゐる。
「鬼」は今昔物語の一つを脚色した人形アニメーションだ。
人形は喋らず、サイレント映画のやうに時折せりふや説明が文字として表示される。
それだけ聞くと、なんとなく幻想的な作品なのかなといふ気もする。
もしかしたら映像だけ見るとそんな気分になるのかもしれない。
Phantom Limbの企画で聞ける範囲の作品が、夢の中のやうな不思議な感覚の曲になるのもうなづける。

日曜日に見てきた「鬼」はほんたうにかういふことがありさうな、とてもリアルな作品だつた。
かういふこと、といふのは、年経て病の床についた母が、鬼になつて我が子を襲ふといふことだ。

強いて云へば、母親が鬼になつて能のやうな演出になる部分くらゐだらうか、幻想的な感じがするのは。
それ以外は、実に現実的で、見てゐて実話のやうな気さへする。
それは、劇伴の影響なのだと思ふ。
三味線も尺八も、ただ音楽であるだけではない。
その場の状況、人物の心境・行動を表現してゐる。
それも実に細かい。
年老いた母には二人の息子がゐて、兄と弟とでも微妙に違ふ。
まるでせりふの代はりでもあるかのやうな演奏なのだ。

考へてみると、人形浄瑠璃といふもの、また文楽といふものがさういふものなのだともいへる。
川本喜八郎は、文楽の三味線のあのリアルさがほしかつたんではあるまいか。
それで鶴澤清治に頼んだぢやないかなあ。
人形も、「鬼」の人形は文楽の人形の首(カシラ)に近い。
三国志や平家物語など人形劇の人形の首は文楽の人形の首をモデルにして作つたといふ話をドキュメンタリで見たゐたことがあるので、アニメーションの人形もさうだつたのかもしれないが、どの首を元にしたのかわかりづらい。
#やつがれに知識がないからな。
でも「鬼」の人形ははつきりと文楽の人形の首からとつてきたんだなといふことがわかる。

幻想的な話を現実的に作る。
川本喜八郎が「鬼」で目指したのはそこだつたんぢやあるまいか。

日曜日にあらためて見てさう思つた。

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