常連と一見
三越百貨店の恵比寿店が閉店した。
長いこと行つてゐないが、以前はよく行つたものだつた。
ローワンの毛糸を扱つてゐたからだ。
さういや日本橋の三越でもローワンの毛糸を扱つてゐたけれど、もう手芸店はないやうだ。
手芸店のない店を「百貨」店と読んでいいものかどうか悩むが、これも時代の趨勢と思へばそのとほりかもしれない。
恵比寿の三越は、日本橋のそれよりも毛糸をたくさん扱つてゐたやうに記憶してゐる。
店のスペースも広かつた。
壁面の棚に毛糸がずらりと並べてあつて、店の中には大ぶりな机があり、客なのかそれとも何かしら講習会のやうなものをやつてゐてその生徒なのか、何人かの人が机を囲んであみものにいそしんでゐた。
手芸店だなあ。
さう思つたものだ。
町の手芸店はさういふものだつたやうに思ふ。
とくに冬になるとそんなに広いともいへない店内にあみものをする人が何人かゐた。
店長や店員の場合もあつたし、客だつたりもした。
その後、Rowanの店自体は三越を出て少しはなれたところに店舗を構へた。
そこにも何度か行つた。
そこにも店内には机があつて、あみものをする人々が机を囲んで編んだりおしやべりをしたりしてゐた。
そして、なんだか近寄り難かつた。
三越にあつたころはそれほど気にならなかつたのだが、一軒の店になつた後は、机の周りであみものをする人々は常連で、そして自分はヨソモノだ、といふ印象がぬぐへなかつた。
その店もいつのまにか閉店してしまつた。
とても残念だ。
あんなにたくさんRowanの毛糸を見られる店はさうさうなかつたからだ。
それにしても、あの部外者感はなんだつたんだらう。
そんなものを感じたのはやつがれだけだつたのだらうか。
店長の方はとてもよくしてくだすつたといふ記憶はあるのだが。
この店では、生まれ来る子どものために何かを作らうとリバティの布地を見に来た母娘と出会つたことがある。
母親と自分とがぶつかつてしまつたときに、「ごめんあそばせ」と云はれたのが忘れられない。
恵比寿か。
三越のあとはビールの店が入ると聞いてゐる。
さうしたら行くかな。
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