「みんな持つてるもん」と戦ふ
ポッドキャスト「More or Less」を聞いてゐたら、小さな子どもからこんな質問があつた。
「自分のクラスには28人の子どもがゐて、そのうち10人の名前はアルファベットのAからはじまる。この確率は一般的なものなのかどうか」
質問者はとてもかはいい声の女の子で、質問するやうすもかはいかつたのだが、それはさておき、ほんたうにこの件を質問したいと思つたのは、その子の横についてゐたとおぼしきお父さんなのかもしれない。
これを聞いて思ひ出したのが「みんな持つてるんだよ」といふ親に何かを買つてもらふときの決まり文句だ。
これで買つてもらへたといふ話を聞いたことがないし、大抵の場合は「よそはよそ、うちはうち」と切りかへされて終はる運命にあることだと思ふ。あるひはあまりに古典的過ぎていまさらこんなことを云ふ子どもはゐないといふこともないとはいへない。
だが、似たやうなことはあるのかもしれない。
たとへば電車やバスだ。
電車やバスが以前より空いてゐるといふ話を聞くと、「そんなことあり得ない。自分が乗つてゐる電車は以前とおなじくらゐ混んでゐるのに」と思ふ人が多い。
その人にとつてはそれが真理なのだらう。
だつて自分が乗つてゐない電車のことなど知りやうがないし。
でもほかの区間、ほかの路線、ほかの行き先、ほかの時間帯の電車のやうすがどうなのか、その人は知らない。
同じ時間帯でも逆方向に向かふ電車は空いてゐるかもしれない。
「こんなにたくさん客が乗つてゐるのだから」とその人はいふかもしれないが、人が体験することといふのは世の中のほんの一部にしか過ぎないことが往々にしてある。
きちんと情報源にあたれば、自分の知らない世の中が見えてくるかもしれない。
といふやうなことがティム・ハーフォードの『How to Make the World Add up』に書いてあつた。
最初の質問に戻ると、子どもは自分のクラスにAからはじまる名前の子が28人中10人もゐることを不思議に思つたのだらう。
アルファベットは26文字ある。どの字も平等に名前の最初に使はれるとしたら、どの字にも一人はその字ではじまる名前の子がゐるといふ寸法だ。
実際にはXとかZとか、あまり名前の最初に使はれない字もあるからさう単純にはいかないところがこの質問のおもしろさでもある。
普通だつたら、この子は「世の中にはAからはじまる名前の人が多い」と考へるところで終はつてゐたらう。
世の中は広い。
28人ではサンプルとして少なすぎる。
ぢやあ世の中と比べてどうなんだらう。
さう考へるやう子どもを導いたのは一緒にゐた親なのかもしれないが。
自分の知る世界は自分が思つてゐるよりずつと狭くて小さいと心のどこかに控へておくのはいいことだ。
いつでも思ひ出せることではないとは思ひつつも。
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