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Wednesday, 19 August 2020

座れない若人

一昨年の九月、日本教育会館にウルトラセブン落語を聞きに行つたときのことだ。
左隣に座つてゐたのは見たところ『ウルトラセブン』をリアルタイムで見てゐたとおぼしき世代の三人づれだつた。
右隣は一人で来てゐた推定二十代の人。ウルトラ好きなんだらうな、と思ひつつ、落語も好きだつたらいいななどと開演前は思つてゐた。
開演を待つあひだ、三人づれの方は仲間内でいろいろ話をしてゐた。
どうも聞いてゐると、能や狂言にも行くのらしい。
また、森次晃嗣の経営する店にも何度か行つたことがあるといふやうな話をしてゐた。
一人で来てゐた人がどうしてゐたのか、記憶はない。多分、スマートフォンを見てゐたか、目を閉ぢてゐたかしたのではないだらうか。

開演を迎へると、両隣の様相が変はつてくる。
三人連れの方は笑ふし拍手もするけれども、座つてゐるその姿勢をくづすことはまづなかつた。
一人で来てゐた人は、とにかくじつと座つてゐられないのらしい。
落語を聞いてゐるあひだも動くの動かないのつて。
これだけでわかる。
この人は普段、落語を聞かないのだ。
いや、聞くかもしれないけれど、寄席や落語会に行つて聞くことはない。
さういふ人なのだ。

歌舞伎などを見てゐると、お隣がちよつとお年を召した方だつたりすると、ずつとおなじ姿勢で座つてゐることがむつかしいらしく、椅子のしきりに肘を置いたりさらにはその手の上に顔を乗せてみたりといろいろなことをする人がゐるな、といふことに気がつく。
年をとつて筋力や体力が衰へて、長時間姿勢をくづさずにゐることがむつかしいからかうなるのだ。
さう思つてゐた。

さうぢやなかつたんだな。
年だけの問題ではなかつたのだ。
若くても、一定時間姿勢を保つてゐられない人はゐる。
ただ座つてゐることに慣れてゐないのだらう。
聞いてゐてつひ笑つてしまふやうな落語を聞いてゐてもとにかく落ち着かない。
隣にゐるこちらもそはそはしてしまふ。

三人連れはなにしろリアルタイムで見てゐさうな世代のやうに見受けられたから、おそらくもうすぐ還暦とかもう迎へてしまつたとかそのくらゐの年だつたらう。
でも落語を聞いてゐるあひだ姿勢を保つてゐられる。
普段、能や狂言を見に行つたり、おそらくは落語も聞きに行くこともあるのだらう。
座ることに慣れてゐる人々なのだ。

すべての若い人がさうだとは云はないし、そんなことはないとはわかつてゐても、このときちよつと落語や芝居の未来は暗いかもしれないなと思つた。
なぜといつて、ただただ座つてゐることに慣れてゐない人がゐるだらうからだ。
もしかすると、このとき隣に座つた人が若者代表かもしれない。

無論、あの後一人で来てゐた人が落語を気に入つて寄席通ひをはじめてゐるかもしれない。
あれから二年、長時間座ることにもすつかり慣れてゐるかもしれない。
でもやつぱりむつかしからうなあ。
ただただ座る力も一朝一夕でつくとは思へないからだ。

現在、寄席は開いてゐるし、芝居の幕もぼちぼちあがるやうになつてゐる。
でも客を、とくに新たな客を呼び寄せるのは至難の技だな、と思ふ所以である。

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