気になる店
3月31日、明日からは在宅勤務をしやうと思ひながら帰宅した。
疲れてゐたしまつすぐ帰ればいいのに、どうしてもとある店によらずにはゐられなかつた。
こどものころから知つてゐる喫茶店だ。
図書館に行く途中に見かけて、大人になつたら行つてみたいなと思つてゐた。
はじめて行つたのは高校生の時だつたかな。
日曜日は休みの店なので、なかなか行く機会がなかつた。
それはその後も変はらず、土曜日に行かうとして図書館に行くのは結局日曜日になつてしまつたりして、その店に行くのは3年に1度とか5年に1度といふ感じだつたこともある。最近では最後に行つたのは去年の8月だ。
店長はいつのまにか代替はりして、それでも店をつづけてゐる。
その喫茶店にどうしても行きたかつた。
気になつてゐたからだ。
当時はもう外食は控へませうといふ空気が濃厚だつたし、なくなられたら困りはしないまでも悲しいからだ。
店はやつてゐた。
常連とおぼしき客が三人ほど、すこしづつ離れて座つてゐて、店の人々と話してゐた。
中にひとり医療関係とおぼしき客がゐて、今日職場にマスクが1人につき2枚送られてきたといふ話をしてゐた。
自分の周囲ではマスクなどまつたく見当たらず、政府や自治体が医療関係者にマスクを配るといふ話は聞いてゐたものの、実際に配られたといふ話を聞いたことのないころのことだ。
どんなマスクだかわからないが、配られるところもあるんだな、とその時思つた。
1人ではあつたけれども、やつがれはテーブル席に座つた。
そして、メニューを開いて、いままでこんなコーヒーあつたんだ、といふものを頼んだ。
訊いてみたら前の店主のときからあつたといふ。
知らなかつたな。
ブレンドかマンデリンか、あと夏はアイスコーヒー、そのいづれかしか頼んだことがなかつた。
その後、この店には行つてゐない。
まだ営業してゐるだらうか。
また日々の新たな感染者数が増えてゐる中、困つたことになつてゐたりはしないか。
気になる。
気にはなるが、なかなか行けずにゐる。
出かける機会があつても、そばまで行くことがない。
用事もない。
それで3年や5年に1度しか行かない時期もあつたとは上にも書いたとほりだ。
おそらく、いふほどその店のことを心配してはゐないのだらう。
心配してゐる自分が好き、心配する自分に酔つてゐる。
それだけなのかもしれない。
今日も目医者には行つて、でもあの喫茶店には行かなかつた。
こんな状況で、行くのが果たして賢明なことなのかどうか、判断がつかなかつたからだ。
目医者は予約を入れてしまつたし、放置すると失明につながるかもしれないといふ症状の検査だから行かざるを得ない。
心置きなくあの喫茶店に、ほかの店に行けるやうになるのはいつのことだらう。
夜明けは見えない。
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