米光一成の『思考ツールとしてのタロット』を読んで、師匠と魔獣とを決めてみた。
考へてみたら、師匠と魔獣といふのはどういふものなのかよくわからない。
混沌とした世の中で、はじめて出会う他者が師匠である、といふやうなことが本には書かれてゐる。
この本はあるイヴェントでの内容をまとめたもののやうなので、そのイヴェントに出てゐればもうちよつとわかりやすかつたのかも。
決め方はわかる。
タロットカードの大アルカナだけを取り出してシャッフルして山にする。
そこから引いた任意の一枚が師匠になる。
さらにもう一枚引いたものが魔獣になる。
米光一成の師匠は魔術師、魔獣は節制なのだとか。
はじめて読んだときに自分も決めてみやうと思つて手元にタロットカードがなかつた。
それに、さう、よくわからないわけだし。
ところでiPhone用にタロットカードアプリケーションがある。
ダウンロードしてみると、誕生日によつてカードがあるといふ。パーソナルカードといふのらしい。
タロットカードと数秘術とを組み合はせたものなのださうな。
自分のパーソナルカードは、吊るされた男だつた。
忍耐……好きぢやないけど、我慢してゐるといへばさうかも。
献身……それはないな。まつたくない。他人のためになにかすることが我が人生の喜びだなんて思つたことがないし、さういふ行動もほとんど取らない。
あー、だから幸せぢやないのかも?
誕生日によつて決まるカードにはもう一枚あることもあつて、ソウルカードと呼ぶといふ。
これが戦車。
えー、猪突猛進ですか、このやつがれが。
ないわー。
行動力とかまるでないのに。
しかし、吊るされた男を師匠に、戦車を魔獣にするといふ手もあるな、とは思つた。
思つてゐるうちに時は流れ、『思考ツールとしてのタロット』を読み返していみたら近所の書店でトランプやタロットカードのイヴェントをやつてゐたので、魔夜峰央のタロットカードを買つてしまつた。
これは以前からほしかつたもので、でも魔夜峰央だから絵柄が怖いかなー、とかちよつと尻込みしていたものだつた。
買つて正解。とても美麗なカードで、小アルカナカードもあるし、とてもステキ。
このカードを使つて師匠と魔獣とを選んでみた。
師匠は愚者、魔獣は塔だつた。
愚者は、the prodigal son がもとだとといふ。
聖書に出てくる放蕩息子だ。
相続するまで待てない先に財産を分けてくれと父親に云つて出て行つた息子が、放蕩の果てに帰宅する。
すると、父親は「よく帰つてきてくれた」と歓待する。
おもしろくないのは兄弟がぶらぶらしてゐるあひだも親と一緒に暮らしてきたもう一人の息子だ。
「自分はずつと親の面倒を見てきたのに」と文句を云ふ息子に、父親は云ふ。
「あの子が悔ひ改めたのだからめでたいんだよ」と。
うわ、なんか、自分だ。
身勝手で、家族のことなんかなにも考へてゐないところなんか、まさに自分そのものだ。
いや、まあ、師匠といふのは自分と似たところのあるカードといふわけではないのだらうけれども。
むしろ「無軌道」とか、どうよ、と思つたりはするのだが。
あー、でも、秩序を求めつつ部屋をかたづけられない自分は「無軌道」なのか。
職場に縛り付けられてゐると思ふ自分は「自由」を求めてゐるのではないか。
さうも思へる。
『思考ツールとしてのタロット』には、愚者にはその日にした無謀なことを語りかけるといいとある。
無謀なこと、ねえ。
あんまりしないねえ。
小心者だから。
そんなわけで、日々「語りかけることがない……」とあれこれ考へながら師匠に語りかけてゐる。
師匠とはまだそんなに親しくないので、魔獣には話しかけてゐない。
塔ね。
塔といへば、22枚ある大アルカナの中で唯一正位置も逆位置もよろしくない意味のあるカードだ。
米光一成は本の中で最近ではいやなカードはないといふのが主流だと書いてゐるが。
でもまあ塔にはやはり負のイメージがあるなあ。
破壊。
塔のイメージといつたらこれでせう。
でもまあ、本によると「衝撃」とか「脱皮」といふ意味があるのださうな。
うーん、変化を厭ふ自分には向かないなあ。
だからこそ他者との出会ひといふことになるのかもしれないけれども。
塔にはびつくりしたできごとを話すといひのださうである。
それならおつきあひしていけるかな。
ところで、師匠と魔獣とには名前をつけるのださうな。
米光一成は、魔術師にはマギちやん、節制にはテンちやんと命名したといふ。
やつがれは、愚者には風ちやん、塔にはとぅるむんと名付けてみた。
愚者の風ちやんはフーテンのフー、風来坊の風だ。
塔のとぅるむんはドイツ語のTurmから。ほら、LEUCHTTURMつて手帳があるでせう。「光の塔」つて今日泊亜蘭のやうだけれども、灯台のことだ。
愚者は「こんな無謀なことをしちやつたよー」とか語りかけると、「OK、OK、大丈夫」つて答へてくれるのらしい。
さうか。
だつたらもつと無謀なことに取り組んでいけるかな。
これまでは「こんなことしちやいけないんぢやないか」「あんなことしたら人になんて云はれるかわかんない」とか考へることが多かつたから。
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