街の手芸屋
かぎ針編みのスカーフは細々と編み進んでゐる。
無気力からは少し脱して、しかしあひかはらずやる気はない。
やる気がないから編んでしまふ。
この負の連鎖は以前から変はらない。
ところで、土曜日に横浜の元町に行く機会があつた。
そして、以前から気になつてゐた店に立ち寄つた。
石川町駅から元町通りに向かふ途中、「元町通り」と書かれた門の向かひにある店だ。
店の名を大島屋といふ。
以前から気になつて行けなかつたのにはわけがある。
日曜日が店休日なのだ。
そして、なぜか元町に行くのは日曜日であることが多かつた。
そんなわけで、「イェーガー」とか舶来の糸の名前が書いてあるにも関はらず、店の前まで行つて中に入つたことはなかつた。
その日はしかし土曜日だつた。
これはもしかして、前から気になつてゐたあの手芸屋に行く機会なのではあるまいか。
さう思つて店の前まで行つてみると、もう「イェーガー」とは書かれてゐなかつた。書いてあつた場所に消したあとがある。
しかし、外から中をのぞいてみると、「JAEGER」といふラベルをつけた糸があつた。
外から見えるのはラメ糸とフェイクファーの糸だつたけれど、もしかしたら中になにかあるかも?
さう思つて入つてみたところ、季節的なものかもしれないが毛糸の扱ひは、そんなに多くはなかつた。
イェーガーの糸も、外から見えたもの以外にはなかつたやうに思ふ。
店の中にはものがあふれてゐて、如何にも街の手芸店といつた趣だつた。
街の手芸屋は、かつては我が家の近所にもあつた。
しかも二軒もあつた。
中学生のときは、家庭科の被服の時間に使ふ布を買つたものだ。
駅まで行く途中にも何軒かあつたし、駅前にはもちろん何軒かあつた。
それが、いつのまにかなくなつてしまつてゐた。
いま、繕ひものに使ふ糸や針、ボタンなどが必要になつたとき、人はどこにいくのだらう。
百円ショップか。
昔は、街の手芸店だつた。
突如葬式に行くことになつて黒い服が間に合はず、手芸屋で真つ黒なボタンを買つてきて黒いスーツのボタンを付け替へたことがある。
いまそんなことになつたら、どうしたらいいのかわからない。
喪服を用意してゐない方が悪いといはれればそれまでだが。
だが、元町にはある。
いいなあ、あのあたりに住んでゐる人。
自分は住めないけど。
しばらく毛糸の棚のあたりに佇んでゐると、奥からご店主とおぼしき人が出てきた。
そして、なにを編むつもりなのか、と訊かれた。
なにか編むつもりはないんだよな。
単に毛糸がほしいだけで。
でもさういふわけにもいかないので、今月の「すてきにハンドメイド」でやつてゐたやうな手提げを編みたい、と伝へやうとしたが、うまくいかなかつた。
この暑いのに、気がついたら純毛毛糸を買つてゐた。
中細で、ハマナカのノーブランドみたやうな毛糸だ。
これがいい色でね。
とりあへず40gを三玉買つて帰つてきた。
三角ショールでも編むつもりだつたけれど、ネックウォーマもいいな。
この暑いのに、毛糸を買つてしまつたのは、ご店主との話が楽しかつたから、といふこともある。
きつと、これまで数多の手編み好きと話してきたんだらうなあ。
生まれ来る子どもや孫用のあれこれや、好きになつてしまつた同級生に送るマフラーやセーター、中にはスーツを編んだ人もゐるかもしれない。
舶来の毛糸を扱つてゐることを大々的にかかげてゐたのだもの、玄人はだし、否、まさに玄人の人も来てゐたかもしれない。
そんな気がした。
それで、これからますます暑くなるといふのに、純毛毛糸などを買つてしまつたのだつた。
三角ショールだと編み進むうちにだんだん膝の上に乗るやうになるけれど、ネックウォーマなら乗らないやうにして編み進むこともできさうだしな。
いづれにしても、先にかぎ針編みのスカーフを、と思ひつつ、本格的に暑くなる前に純毛毛糸を編んでしまつた方がいいだらうか。
悩むなあ。
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