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Friday, 20 March 2020

自己肯定感と「スローな武士にしてくれ」

NHKの地上波で「スローな武士にしてくれ」の再放送を見た。
衛星放送で放映したときは二時間だつたのが一時間半に短縮されてゐたと見終はつてから聞いたが、自分でどうかうできる問題ではないので仕方がない。

おそらくはあちらこちらで紹介されてゐることとは思ふが念のためあらすじを書いておく。
京都は太秦にある京映撮影所に、NHKから最新技術を駆使したパイロット版の時代劇を撮らないかといふ依頼が舞い込む。
京映側は監督はじめヴェテラン揃ひで、つまりは最新技術には疎いがドラマ作りにおいては一流の人材ばかり。
主役にはパイロット版といふこともあり、殺陣の腕前は抜群だがセリフを云はせると声がひつくり返つてしまふ大部屋俳優・村田茂雄を大抜擢する。
撮るのは新選組のドラマ。主人公は近藤勇で、池田屋討ち入りをクライマックスにもつていく。
NHK技術ラボのほこるさまざまな最新鋭の技術を用ゐて、撮影はつづく。
みたやうな。

あとはもう池田屋の場面を撮るばかり、村田茂雄こと茂ちやんが大部屋で愛妻弁当を食べてゐる場面がある。
そこに仲間である大部屋俳優の城ちやんが入つてくる。
茂ちやんは城ちやんに云ふ。
この撮影ももうあと少し。これが終はつたら晴れて大部屋俳優に戻れる、身の丈にあつた斬られ役に戻る、と。
語り口調も穏やかで、それが一番いいことなのだといつたやうす。

これに城ちやんが食つてかかる。
自分(たち)が茂ちやんのことをどんなにうらやんでゐるか、主役が分不相応だなんてどの口で云へる、どれだけ恵まれてゐるのか、わかつてゐないのか。
違ふところもあらうが、まあ、概ねそんなことをぶちまける。

実は城ちやんは茂ちやんの奥さんのことが好きだつたりもする。それで茂ちやんのことをうらやんでゐるといふこともあるのだが、でも、どちらかといふと、城ちやんは茂ちやんの腕前を認めてゐるんだと思ふ。

チャンバラの腕前は誰にも負けないのに、緊張しがちでセリフを云はせれば声の裏返つてしまふ茂ちやんが、はがゆくて仕方がない。
さういふ面もあるのぢやあるまいか。

翻つて、茂ちやんの気持ちもわかる。
茂ちやんは、おそらくあんまり自己肯定感の高い人ぢやないのだ。
いつでも監督はじめいろんな人からセリフがまづいの演技ができないだのと叱られて、自己肯定感を持てといふ方がムリな状況にずつとゐたんだと思ふ。
だから、主役に抜擢されても「パイロット版でセリフがなくてもすむから」「殺陣の腕を買はれただけだから」「だからこの撮影が終はつたらもとの暮らしに戻るだけ」、そんな風に考へてゐる。
この大抜擢をきつかけにのしあがらうとか思つてゐない。
だいたい年も年だしね、とか。

でも、あんなにすばらしい腕の持ち主なのに。
と、ドラマを見る方は城ちやんに共感するのに違ひない。
自分を卑下しがちな人間は、「さうは云つてもさ」と思つたりするんだらうけれど。

物語の主人公で自己肯定感の高くない人物には、なにかしら他の追随を許さぬやうな能力がそなはつてゐたりする。
現実はなかなかさうはいかないんだけどね。

城ちやんにいろいろ云はれて、茂ちやんは自分の境遇をちよつと見直す。
あとはドラマを見てもらひたい。

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