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Friday, 21 February 2020

歌舞伎「風の谷のナウシカ」の主人公はナウシカであることについて

十二月に新橋演舞場で上演された歌舞伎「風の谷のナウシカ(以下「ナウシカ」)」が映画館で上映されてゐる。
いまは昼夜上演されたうち昼の部が上映されてゐて、東劇では日延べ興行が決まつたさうな。

「ナウシカ」の主人公はナウシカである。
それはもう「義経千本桜」の主人公が義経であるのと同様にさうである。

「義経千本桜」は、現行上演される部分を見てゐると、各段に主役がゐて、義経は脇役といふやうな印象があると思ふ。
知盛が権太が忠信が主役で、とくに忠信が主役で、義経は狂言廻しに過ぎない印象があるだらう。

でもこの狂言廻しこそが古典、とくに丸本物の芝居の主人公なのだ。
「義経千本桜」の義経がそれにあたる。

だいたい、義経でなかつたら「義経千本桜」は成り立たない。
義経の代はりに範頼をおいてみればわかる。
範頼は頼朝の勘気のせゐで大物浦に逃げたりしない。四天王もゐないし愛妾もゐない(作ればいいけれど)。自分の身代はりになつて死んだ家来もゐない(探してみてはゐないけれど)。
権太だけはなんとかなるかもしれないが、範頼が主役だと知盛と忠信の出番はない。
義経だから知盛も忠信も活躍できる。

丸本物ではないが「勧進帳」もさうだ。
ところは安宅でなくてもかまはない。
関守が富樫である必要はないし、関守とやりとりするのは鎌田正近とかだつていい。
ただ、義経だけは他人にすげかへることはできない。

TVドラマの「水戸黄門」もさうだ。
タイトルロールなのだから主人公は黄門様だらう。
でも実際にドラマを見てみると、毎回のゲストが主役となつて話が展開する。
黄門様の役割はゲストを助けることだが、立ち回りでさへ助さん格さんにまかせてしまふ。
だが、毎回のゲストは誰でもいいし、助さん格さんは黄門様だからついてきてくれてゐる。ところの悪代官も相手が黄門様だからいふこともきく。
黄門様は変へられないのだ。

「ナウシカ」のナウシカもさうでせう。
厳密にいふと、フィクションだからナウシカでなくてもいい。
でもナウシカのやうな役回りの人物が主人公だからこそ話が展開する。
原作と人物造形が違ふと非難する向きもあるが、だつて歌舞伎だもん。
歌舞伎とはさうしたものなんだもん。

新橋演舞場で「ナウシカ」を見たとき、ナウシカを演じる尾上菊之助を見て、「義経役者の家の人だなあ」としみじみ思つた。

歌舞伎「風の谷のナウシカ」の主人公は正しくナウシカ。

さう信じてゐる。

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