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Friday, 31 January 2020

「新薄雪物語」のびつくり

「新薄雪物語」が好きだ。
この話は何度かここにも書いてゐる。

なにが好きといつて、初演当時これを見た人はとても驚いたらうと思ふからだ。

「新」といふからにはもとがある。
「薄雪物語」だ。
読んだことないけど。
ただ、あらすじだけ見ると「新薄雪物語」とは大きく異なることはわかる。
驚くでせう。
「あの「薄雪物語」をかう変へたのか」つて。

現行上演されることのある「新薄雪物語」には、ほかの浄瑠璃・歌舞伎とは決定的に違ふことがある。
死ぬのは子どもではなく、親の方だといふことだ。
これもね、当時見た人は「あっ」と云つたんぢやないかと思ふんだよね。
書く方も「客を驚かせてやらう」と思つて書いたらう。
その他こまかい工夫がいろいろ凝らされてゐて、何度見ても「よくできてるなあ」と思つてしまふ。

ああ、三月になつたらこの「新薄雪物語」をまた見られるのかと思ふと、待ち遠しくて仕方がない。

江戸時代の歌舞伎つて「如何に客を驚かせるか」にかけてゐるところがある気がしてゐる。
「東海道四谷怪談」が「仮名手本忠臣蔵」につづけて上演されたといふけれど、見てゐた人は唸つたんぢやないかなあ。

はじめて見た丸本物は「逆櫓」だつた。
見ながら「え、なんで樋口二郎が船頭やつてるの?」とびつくりした記憶がある。

「実盛物語」で実盛の髪を染めてゐる理由にも驚いた、といふ話もここに何度か書いてゐる。
「さう来たか!」と思つたものなあ。

「本朝廿四孝」の「筍掘」を見たときの「え、なんで山本勘助と直江兼続が兄弟なの!」とかさ。
なんてことを考へるんだ。

「熊谷陣屋」にしても「源太勘当」にしても「え、あれをさうするの?」みたような驚きの連続だ。
好きだなあ、歌舞伎。

近松半二なんか、ほんと、いろいろ考へてると思ふ。
「伊賀越道中双六」は「岡崎」なんて、もう驚きしかないぢやん。
倒叙型の推理ものだよね、「岡崎」。
客はあれがほんとは唐木政右衛門だとわかつてゐて、ぢやあ幸兵衛はいつそれがわかるのか。手がかりは何か。
推理ものでせう。
最後に政右衛門が「いつわかつたのか」と幸兵衛に訊くところなんてコロンボとか古畑任三郎でせう。

この「岡崎」にしても「熊谷陣屋」にしても親の情がどうとかいふところが眼目になつてゐるけれど、それは前提知識のない現代人向けのアレンジだと思ふんだよね。
浄瑠璃や芝居の原点は「おどろき」とか「びつくり」とかなんだと思ふ。
「おもしろいことおもしろいこと」ね。

多分、「伝統」芸能になつた時点でそこらへんが逆転するんだらう。

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