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Wednesday, 07 August 2019

「豆腐屋ジョニー」の江戸

八月三日土曜日、日経ホールの第五十六回大手町落語会に行つてきた。

はじめて三遊亭白鳥の「豆腐屋ジョニー」を聞いた。
これが思ひのほか、江戸を思はせる噺なのだつた。
落語ではどうだか知らないけれど(と云ひつつ落語はなにを云つても圓朝が古典だからなあ)江戸歌舞伎めいたつくりだな、と思つた。

江戸の歌舞伎には、とこれ以降は橋本治からの受け売りになるが、世界と趣向といふものがある。
たとへば「東海道四谷怪談」の場合、世界は太平記の世界で、趣向は忠臣蔵、といふことにならうか。あるいは忠臣蔵の世界で四谷であつた怪談を趣向として取り入れてゐる、ともいへる。

以前ここで、特撮戦隊ヒーローものがかういふ作りになつてゐる、といふ話を書いた。
特撮戦隊ヒーローものの世界に、電車だとか恐竜だとか忍者だとかを趣向として取り入れてゐる、といふやうな話だ。
江戸の歌舞伎に限らず、かういふ作りのものといふのはほかにもある。
プリキュアもさうかな。
探せばほかにもあるだらう。

「豆腐屋ジョニー」が、特撮戦隊ヒーローものやプリキュアよりも江戸の歌舞伎に近いのは、世界や趣向の部分の知識の有無がものを云ふところだ。

現在の特撮戦隊ヒーローもの「騎士竜戦隊リュウソウジャー」は恐竜と騎士とおそらく祭りとが趣向として取り入れられてゐる。
でも、恐竜や騎士に詳しくなくても全然問題なく見ることができる。
知識があつたらより楽しいかといふと、うーん、どうだらう。
あまりさういふ感じはしない。

「豆腐屋ジョニー」の場合、世界はゴッドファーザーなのだらうと思はれる。
ここはちよつと自分でも悩んでゐるところで、世界は三平ストアかな、と思はないでもない。
ゴッドファーザーと老人からの需要で成り立つてゐるスーパーマーケットと、どちらがよく知られてゐるかといふと、うーん、いまはスーパーマーケットなのかな。
さうすると、世界は三平ストアか。
で、趣向がゴッドファーザーであり、TV版の「柳生一族の陰謀」といふことになる。

これね、ゴッドファーザーとかを知つてゐるとより楽しい仕掛けがあるんですよ。
「豆腐屋ジョニー」にはドン・カマンベールといふチーズのボスが出てくる。
もう、ドン・コルレオーネでせう。
マーロン・ブランドでせう。

お公家さんのマロニー(麿だけに)といふ登場人物(人物?)もゐる。
これは「柳生一族の陰謀」の成田三樹夫ね。烏丸少将ね。
今回はマクラでもちよこつとこの成田三樹夫の話にはなつたけどね。

もちろん、三平ストアを知つてゐたらもつと楽しいだらうし、とにかく、「知つてゐる」といふことが楽しさにつながる噺なのだつた。

これがとても江戸の歌舞伎なんだよなあ。

江戸の歌舞伎では、世界や趣向は「これ、みんな知つてるよね」といふものばかりだ。
その上で「かう来たか!」と観客をうならせる作りになつてゐる。

これはお浄瑠璃だけれども、はじめて「実盛物語」を見たときは、「ははー、かう来たか!」といたく感じ入つたものだつた。
斎藤実盛がなぜ白髪を染めてゐたのか、その理由が「これだつたのか!」といふ内容なのである。
このお浄瑠璃にはほかにも村の名前の謂はれもわかるやうになつてゐるし、さらに前段から見てゐると、「こんなところから伏線を張つてゐたのか」とうなるしかない。

「豆腐屋ジョニー」には、さういふ「知つてゐるとさらに楽しい」趣向がこらされてゐる。
下手な古典よりよほど江戸な雰囲気のある噺なのだつた。

惜しい哉、近頃では「誰もが知つてゐる」といふものが減つてゐるので、今後はかういふ作りの噺もなくなつていくのかもしれない。

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