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Friday, 07 December 2018

芝居見物 楽しかつたりさうでもなかつたり

まだふり返るにはすこし早いのだが、今年見た芝居の話を少々。

今年は一月歌舞伎座の高麗屋三代同時襲名披露興行にはじまつて、全部は見てゐないけれど毎月のやうに歌舞伎を見てはゐる。
文楽は東京の公演は九月の国立劇場をのぞいては見てゐると思ふ。
そのほかに劇団☆新感線の「髑髏城の七人」の下弦の月と修羅天魔、「メタルマクベス」のdisc 1〜3。
コクーン歌舞伎とNaruto。
それと東京芸術劇場の「贋作 桜の森の満開の下」といつたところか。

今年のはじめは、とにかく歌舞伎が全然おもしろいものに感じられなかつた。
お正月には去年十一月の定九郎がいまひとつで「ほんたうにこれで幸四郎になるのだらうか」と思つてゐた染五郎が、「車引」の袖からの声だけで「松王丸の声だ!」と思はせ、さらには「勧進帳」の弁慶で大きな成長ぶりを見せてくれたにも関はらず、だ。
そしてその「勧進帳」の富樫が吉右衛門であつたにも関はらず、だ。
さらには四月には愛してやまない鶴屋南北の「絵本合法衢」がかかつたにも関はらず、だ。

なんか、もう、歌舞伎、楽しくないのかも。

さう思つてゐたはずなのに、九月の歌舞伎座で「俊寛」を見て、なにかひどく心打たれたのだつた。
「俊寛」はもともとそんなに好きな芝居ではない。
泣けるといふことでいへば「平家物語」の俊寛の話の方がずつと泣ける。
さう思つてきたし、いまでもさう思つてゐる。
でも、あれはちよつとなにか特別だつたな。
芝居に使ふことばではないかもしれないが、「適材適所」といふ感じ。
これ以外ない配役、これ以外ない床、これ以外ない道具等々。

芝居は、たとへひとり芝居であつたとしても、芝居を構成するすべてのものがかつちりとかみあつたときに最高になるのであつて、ひとりだけとか主役陣だけよければなんとかなるものぢやあない。
好きな役者が出てゐればいいといふものではない。
#すくなくともやつがれにとつては、ね。
その後「メタルマクベス」のdisc1〜3を見てさらにその思ひを強くした。

あらためて考へると、九月の「俊寛」には前段があつた。
八月の歌昇・種之助の勉強会「双蝶会」の「関の扉」がそれである。
歌昇の黒主に児太郎の小町姫・桜の精が大変によくてねえ。
なにがいいのかと問はれるとよくわからないのだが、これまでこの会では背伸びしてゐるやうにしか見えなかつた(そしてそれが悪いわけではない)歌昇にどこか余裕が見え、児太郎の方はといふと品があつてはかなげでそれでゐて立女方の強さも見せてゐたやうに思ふ。
多分、この芝居が今年の転換点だつた。

以降は見る芝居見る芝居楽しく、十月は名古屋でこれ以上の江戸の若旦那はまづゐまいといふやうな梅玉の与三郎が見られたかと思つたら翌月は京都で極上の上方の若旦那、遊蕩に溺れた忠兵衛を仁左衛門で見られるといふ、「なに、これ、なんのご褒美?」的な日々を送つてゐる。
歌舞伎座では何年ぶりだらう、吉右衛門と時蔵とが一緒に芝居してたしね。
それも吉右衛門演じる白蓮が時蔵演じる十六夜を腕にして「悪かあねえなあ」だよ。
うわー、かういふのが見たかつたんだよ!

といふわけで、来年も芝居通ひはつづきさうな予感がする。

ところで、「もう歌舞伎見ないかも」と思つてゐた時期に一番楽しかつたのが、歌舞伎座三月の「於染久松色読販」だつた。
通常は「お染の七役」といつてお染を演じる役者の早変はりを見せる芝居だが、この月は土手のお六の強請場だけが出た。
それつてどうなのよ、と思つたが、これが案に相違の楽しさでなあ。
とにかく、出てくるもの出てくるもの、すべてムダになるものがない。
ちよつとした小道具でさへ、あとでちやんと芝居の筋にからんでくる。
すごいよ、南北先生、すごいよ。
いつもは、早変はりは一休みの幕といつた感じで見ていたから気づかなかつたけれど、こんなによくできた芝居だつたとは。

好きな役者はゐるけれど、それだけで見てるわけでもない。
むしろ、それ以外のところで芝居を見てゐるのかもしれない。
そんな気がした平成最後の戌年だつた。

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