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Friday, 12 October 2018

すゑのまつやまなみもこえなむ

一昨日、昨日と歌舞伎や文楽にまつはるうしろ向きな話について書いた。

歌舞伎や文楽は、たまたまやつがれが好きなものだから例として出した。
ほんたうに考へてゐることは、「どうしたらうしろ向きに生きられるだらうか」である。

「どうしたら」などとことはらなくても毎日うしろ向きに生きてはゐる。
どうしても前向きには生きられない。
世に「うしろ向きな社員は不要」「うしろ向きな人とともだちになると不幸になる」などといふ言説がある。
この世を統べてゐるのは前向きな人たちなのだらう。

考へてみたら、やつがれだつて十分前向きだ。
前向きでなかつたら、いつ来るかわからないが必ず来る大地震の控へてゐる日本になど住み続けられるわけがない。
自分が生きてゐるうちは大丈夫。
根拠もなく心のどこかでさう信じてゐる。
前向きだらう?
positive thinking といふべきなのかもしれない。

人間とはさうしたものだ、といふ話もある。
だから生きてこられたのだ、と。
さうなると、前向きに考へるといふのが人としての本来の姿なのかもしれない。
ゆゑにうしろ向きな考への人、negative thinking な人は忌避される存在なのだらうなあ。
カサンドラの云ふことなど、誰も聞きたくないのだ。

個人的な経験からいつて、うしろ向きな考へは危機管理につながるやうに思ふ。
「もしかしたら悪い結果になるかもしれない」と思ふ心が準備をさせる。
リスクを常に考慮に入れる。
かういふ人間もあまり好かれないのだが、でも必要だと思ふんだよなあ。
最悪のシナリオを考へない仕事とか、恐怖でしかない。

だが、さうやつて世間での居場所を求めるからいけないのかもしれない。
以前、南條竹則の「人生はうしろ向きに」といふ本を読んだ、といふ話はここに何度か書いてゐる。
読む前は「うしろ向きに生きつつ世間と折り合つていく方法について書いてあるといいな」と思つてゐた。
そんな内容はまるでなかつた。
うしろ向きな人間は、世間様と交はつて生きてはいけない。
さういふことなのだらうかと思つた。

そして、それはおそらくさういふことなのだらうと思ふ。
うしろ向きに生きていかうとしたら、非社会的な自己を確立するしかない。
どうやらさういふことなのらしい。

自分は自分でうしろ向きに生きていく。
だからかまつてくれるなおつかさん。
背中に銀杏はないけれど、negative thinker どこへ行く。

さうこなくてはいけないやうなのだ。

それは「人生はうしろ向きに」を読んで以降、いや、そもそも読む前からうすうす気がついてはゐたことだつた。
うしろ向きな人間は社会になじまない。
そんな社会が悪いのかもしれないが、ここではそれは問はない。
なじまないのだから、非社会的になるしかないのだ。

以前は、自分のことをそれなりに非社会的な存在だと思つてゐた。
世間なんてどうでもいい。
ひとりで生きていくんだ俺は。
さう思つてゐた。

だがあるきつかけがあつて、でも仕事を辞められないことに気がついた。
仕事を辞めたら社会とのつながりが一切なくなつてしまふ。
さう考へたら辞められなくなつてしまつたのだ。

なんていふことだ。
こんなにうしろ向きなのに、それでもまだ社会とのつながりを求めてゐたのだこの俺は。

選択肢はいろいろ考へられる。
どうにかして前向きな人間になる、とか。
うしろ向きな人間であることを隠して世間様とつきあつていく、とか。
うしろ向きなことを否定せず、また世間とも折り合つていく、とか。
非社会的な自己を確立して、堂々とうしろ向きに生きていく、とか。

最後の選択肢が一番のぞましいが、さりとては、だ。
計画を練らねばならないな。

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