樹がふたつ 希に林と森ひとつ
今年六月末ごろ、「「探偵物語」の再放送が終はつてしまつた。もうTVをつけても成田三樹夫が出てゐることはない」といふやうなことを書いた。
去る日曜日、「帰ってきたウルトラマン」で坂田さんとアキちやんとが殺されてしまつて、もうTVをつけても岸田森が出てゐることはなくなつてしまつた。
「探偵物語」終了後の心の支へだつたのに。
と思つてゐたが、もしかすると年内に「必殺仕事人」の再放送がはじまるかもしれず、さうしたら第一話で見られるな、とか、かすかな望みをつないでゐるところだ。
去年の秋から今年の春にかけて、感染症系の病にたてつづけにかかり、爾来平日の夜の映画鑑賞をあきらめてゐる。
無理をすると再発する可能性が高いからだ。
再発してなにが困るかといふと、医療費がかかるといふことだ。
なにもせずのんびりしてゐれば治るといふのならいざ知らず、治療せずにはふつておくと重篤なことになるといふからおだやかではない。
だつたら映画はたまの休みのあいた日に、といふことで手を打つことにした。
映画だけではない。
平日の夜はなるたけ出歩かない。
まつすぐ家に帰る。
さうしてほぼ一年が過ぎた。
見逃した映画、聞き逃した落語、あきらめた展覧会。
風邪に恨みは数々ござる。
さうやつてあきらめてきたといふのに、この三連休、またぞろ体調をくづしてしまひ、予定をすべてあきらめることになつてしまつた。
ええ、くちをしやな。
身の丈にあつた娯楽を楽しめといふ思し召しなのかもしれないが。
さうはいふても世の中に楽しきことのあふれてゐるものを。
なんであきらめられやうか。
といふわけで、あきらめが悪いのがいけないのだ。
もう最初からなかつたことにしてしまひませう。
さうなると楽しみというて、あとは家でできること、あみものやタティング、紡ぎといつた手芸ごとに読書やTVしかないぢやあありませんか、お立ち会ひ。
吁嗟、だといふのに、もうTVをつけても成田三樹夫も岸田森も出て来はしないのですよ。
なんといふことでせう。
ところで、樹木希林の訃報からしばらくたつ。
Twitterでは前夫の話がまつたく出ないといふつぶやきを散見するが、さうかなあ。
新聞のWeb版とかで見かけたけどなあ。
さういふ人は新聞のWeb版は見ないのか知らん。
それとも新聞などはものの数には(とくにWeb版なぞは)入らないといふことなのか知らん。
おそらくは、愚考するに、さういふ人の「全然」はTVのことをさすのではないかと思ふ。
訃報後の報道についてはまつたくTVで見てゐないのでなんともいへないが、多分、ほとんどその話題に触れたものはないのだらう。
あつたとしても、つぶやく人の目には入らなかつたのかもしれない。
TVにはいまだこのていどの影響力は残つてゐるものかとも思ふ。
よくわからないけれどね。
やつがれは、樹木希林の私生活には興味がない。
映画やドラマで見られれば十分。
精々オフィーリアの扮装をしたポスターを見て「樹木希林(或は悠木千帆)のオフィーリアはどんなであつたらう。そのときのハムレットは、もしかしたら前夫ではあつたらうか知らん」と妄想するくらゐが関の山だ。
それで結構楽しいのだつた。
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