「歌舞伎買います」あらすじ
注: 「怪奇大作戦」は「京都買います」のパロディです。
歌舞伎の舞台で、役者の口にしたセリフが消えるという事件が起きた。
口は動いている。そこまでのセリフもきちんと聞こえていた。
だが肝心の名セリフが消えるという不可解な事件だ。
科学捜査研究所(SRI)の牧史郎は、主に歌舞伎役者の身体能力を科学的に研究する藤森教授を大学の研究室に訪ねる。
藤森教授が研究対象にした役者にセリフ消失事件が起きているからだ。
そこで牧は、藤森教授の助手・須藤美弥子と出会う。
歌舞伎に夢中な美弥子に、牧は夢中になってしまう。
SRIの小川さおりに無理矢理つれて行かれた木挽町広場で、牧は美弥子がチラシを配っているのを見かける。
チラシを配りながら美弥子は「歌舞伎を売ってくれ」と訴えている。
チラシには日本国民として歌舞伎に関するいっさいの権利を譲渡することを約束するといった旨のことが書かれていた。
牧を認めて逃げる美弥子。
美弥子を追って、牧は「歌舞伎を買うっていったい?」と問いかける。
「誰も歌舞伎なんか愛してないって証拠ですわ」
美弥子は答える。「それだけのことです」
なおも問うと、美弥子は云う。
歌舞伎のうつくしさのわからない人から歌舞伎を買ってしまいたい。
歌舞伎のよさのわかる人だけの国を作るために歌舞伎を買うのだ、と。
このわたしの気持ちがあなたにおわかりになりまして、と美弥子に訊かれて、牧は答えに窮する。
すると、美弥子は「おわかりにならないでしょうね」「それでいいんです」とほほえむ。
「歌舞伎はわたしだけのもの。そう思いたいからです」と云って。
美弥子とつれだって歩きつつ、牧は美弥子の歌舞伎への愛を知る。
歌舞伎座三階の鬼籍に入つた役者の写真の前で、美弥子は云う。
かつては、かうした役者たちによるすばらしい舞台を見ることができたのだ、と。
いまの舞台からそれを想像するのはむつかしい、と。
美弥子に感想を訊ねられ、しかし牧は答える。
「ぼくは……ぼくは、映像でしか見られない過去の舞台より、実際に生きた役者の舞台の方が好きかもしれない」
牧と歩くうち、美弥子は牧に少しずつ心を開くようになる。
セリフ消失事件は相変わらずつづいている。
そして、事件の前にはかならず美弥子が劇場に姿をあらわしていることを町田大蔵およびSRIはつきとめている。
現場にはカドニウム発信器という、ある一定の音波を打ち消しつつその音を受信機に送る機器が必ずある。
美弥子に疑わしい点のあることに気づいた牧は、ある日美弥子のあとをつける。
関係者として楽屋口から劇場に入った美弥子は、ひとしきり大道具のようすなどを感慨深げに見守ったのち、発信器をしかけてその場を去る。
牧はその発信器を手に入れる。
発信器の発する電波から受信機の位置を特定した警察は、その場にいた藤森教授を逮捕する。
警察に同行していた牧は、教授と一緒にいた美弥子のあとを追う。
いまにも泣き出しそうな顔をして、美弥子は云う。
「歌舞伎以外のものを信じようとしたわたしが間違っていた……」
「それだけのことです」
そう云い残して美弥子は立ち去る。
牧はひとりで芝居通いをする。
「勧進帳」「白浪五人男」「道成寺」「寺子屋」「河庄」「仮名手本忠臣蔵」の七段目……
ふと訪れた楽屋口に、牧は黒衣姿の美弥子を見つける。
だが美弥子は自身は須藤美弥子ではないと云い、須藤美弥子は歌舞伎とともに生きていくと伝えてくれと云っていた、と牧に告げる。
美弥子を説得することばを持たない牧は、立ち去ろうとしてきびすを返し、ふとふり返ると、そこには美弥子の姿はない。
牧の足下に、五十年前の顔見世興行のチラシが吹き寄せ、そこには美弥子によく似た顔の「鏡獅子」の弥生の写真がうつつてゐた。
スーパー歌舞伎、コクーン歌舞伎、超歌舞伎、歌舞伎NEXTなどの映像が流れ、その上にエンドクレジットがかぶさる。
「歌舞伎買います」完。
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