ちかごろの京都の町の変はりやう
「京都買います」は、度を越した恐がりのやつがれでも見ることのできる数少ない「怪奇大作戦」のエピソードのひとつである。
なぜといつて、まづ怖くない。
とくにヴィジュアル的に恐ろしいものが出てこないといふことが大きい。
「狂鬼人間(はそもそも見られないといふ話もあるが)」の大村千吉とか、絶対見られないもの。怖すぎて。
まあそもそも「「怪奇」大作戦」といふ名前がよくないといふ話もあるのだが、それはそれとして。
「京都買います」とはどんな話かといふと、「仏像を愛した女の話」である。
仏像を愛する一方で、その仏像のおはします京都の町の変貌をなんとかしたいと思ひ、そこで「京都買います」といふことになるわけだ。
実際にしてゐたことは仏像の窃盗なんだけどね。
「怪奇大作戦」といふTVドラマ自体は、世の中の怪しい事件を科学捜査研究所(SRI)の面々が解き明かす、といふ内容だ。
「京都買います」は、夜な夜な忽然と消へる仏像の謎をSRIが追ひかけるといふ話、ともいへる。
さういふわけで、SRIの牧史郎と仏像を愛する女・須藤美弥子とが出会ふわけだ。
ところで世の中には「聖地巡礼」といふことばがある。
聖地巡礼といへば個人的に最初に頭に浮かぶのはイスラム教徒のメッカへの巡礼なのだが、まんがやアニメ、映画やTVドラマなどの舞台やモデルとなつた土地や建物などを訪れることを「聖地巡礼」と呼ぶ。
最近では「この世界の片隅に」の舞台になつた呉市や、「君の名は」の数寄屋橋……ぢやなくて「君の名は。」の飛騨だとかが有名だらうか。
今年で放映五十周年を迎へる「怪奇大作戦」の舞台となつた場所にも「聖地巡礼」をする人々はゐて、「京都買います」にもとづく「聖地巡礼」はWeb検索をかけるとそれなりの数検索結果があらはれる。
写真を掲載してゐるWebサイトもたくさんあつて、さうした写真を見てゐると「京都買います」のころそのままなところが多い。
店が移転したとか、黒谷でいふと一部朱塗りになつたところがあつたりとか、化野念仏寺でいふとドラマ内で歩いてゐたところが立ち入り禁止になつてゐたりとか、さういふ違ひもないわけではない。
しかし、牧と美弥子とが一緒にゐたところ、またドラマ最終盤でひとりさまよふ牧の立ち寄つたところは驚くほど変はらない。
冬の時期に祗王寺に行くと、椿が一輪だけぽつりとある。
そんなところまで一緒なのだ。
最初のうちは、「ロケ地は寺社ばかりだもの。変はらなくてもそりや当然だよね」と思つてゐた。
だがよくよく考へてみると、これはさういふ風に撮つたのではあるまいか、といふ気がしてくる。
エンディングに出てくる場所は、いまではどこだつたのかわからないくらゐ変はりはててゐるからだ。
エンディングに出てくるのは巨大な換気口やガスタンク、京都タワーや東寺さんの五重塔を望む住宅地などだ。
もう存在しないものも多いだらう。
「京都買います」は、仏像を愛し古いままの京都を望む美弥子とそんな美弥子に惹かれる牧とを描く場面では一見不変とも思へる場所を舞台に選び、エンディングには美弥子や美弥子の師である藤森教授が「いまの京都の変はりやう」と嘆く京都を舞台に選んで撮影された、さういふドラマなのではあるまいか。
そんな気がしてくるのである。
そんな意図なくして撮られたとしたら、それはそれでこの見事な対比にうなるばかりだ。
昨日の「歌舞伎買います」にからめて、それぢや歌舞伎はどうなの、といふ話をしやうと思つてゐたが、長くなつてしまつた。
それはまた別の機会に。
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