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Wednesday, 18 July 2018

上期の芝居がしぼれない

役者や俳優より舞台や映画・ドラマそのものの出来を云々してしまふ。

「ニノチカ」が好きで、見るたびにグレタ・ガルボばかり目が追ひかけてしまふのだが、だつたらガルボの出てゐる映画はなんでも好きかといふとさうでもない。
これに限るといふことはないけれど、できれば「ニノチカ」。
さう思つてゐる。

先日、池袋の新文芸坐で「蜘蛛巣城」を見てきた。
山田五十鈴が怖いのであまり見ない映画なのだが、「メタルマクベス」を見る前に見たいと思つてゐたので渡りに船だつた。
見返してやはり山田五十鈴が夢に出るレヴェルで怖く、三船敏郎もすばらしいのだが、でもだつたら別の映画でもいいわけでさ。
「蜘蛛巣城」でなければならないその理由は、「蜘蛛巣城」が作品としてすばらしいと思ふから、すくなくともやつがれは「蜘蛛巣城」が映画として好きだからだ。
ちなみに、山田五十鈴も三船敏郎も取り立てて好きな俳優といふわけではない。

自分の好きなもの・好きな人を無条件にほめたたへることができない。
まづは欠点を探す。
それをあげつらふ。
自分は客観的に自分の好きなもの・好きな人をとらへてゐると、内外に示す。
なぜさうなつてしまつたのかといふと、こどものころみーちやんはーちやんといふものが嫌ひだつたからだ。

自分の周りにゐるのはみなミーハーだつた。
家族も近所の子どもたちも、ひとりとしてミーハーでない人はゐなかつた。
ミーハーは醜い。
昨日はあの人が好きと騒いでゐたくせに、翌日には手のひらを返したやうに別の人を好きだといふ。それまで好きだつた人のことなど忘れてしまつたかのやうなふるまひをする。それだけならまだしも昨日までは神のごとくたたへてゐた人のことを悪く云ふ。
しかも、ミーハーは自分の好きなものの欠点を見やうとしない。
あんなに明らかな汚点を、ミーハーはないものにしてしまふ。
なんてイヤなんだらう、ミーハーであることつて。

その後、ミーハーとは和解した、と以前書いた。
ミーハー的のふるまひをしてみたら、とても楽ちんだつたからだ。
いつたい自分はこれまでなにと戦つてきたのだらう。

さう思つたけれども、身に染みついてしまつたものといふのはなかなかとれないのだらう。
三つ子の魂百までもとはよく云つたものだ。
好きな役者の出る芝居でも「この芝居は好きぢやないんだよなあ」とか「ほかの配役がよくないなあ」とか文句をつけてしまふ。
今年も後半に入つたので、一月から六月までに見た芝居の中でなにがよかつたかと考へてみると、「これ!」といふものがひとつもない。
一月歌舞伎座の「勧進帳」はよかつたけれど、襲名演目として最高だつたとは思ふが、「勧進帳」としてよかつたとは思つてゐない。
「七段目」は芝居として好きぢやない。
「絵本合法衢」は片岡仁左衛門一世一代といふふれこみだつたが、大阪松竹座のときの方がいい出来だつた。配役も松竹座の方がよかつた。

いろいろ考へて、おもしろかつたといふ意味では三月の「於染久松色読販」かなあ、といふところに落ち着く。
普段は人気女方の早変はりが見どころの芝居だが、今回は土手のお六のくだりだけ出した。
芝居全体の中では早変はりのない地味といへば地味な芝居だが、ここだけ取り出して見ると、これが隅から隅までよくできたいい芝居なのだつた。
無駄な仕掛がなにもない。
登場人物の来歴や、死体・早桶に至るまで、実にさりげなくさまざまなものがちりばめられてゐる。
よくできてるなあ。
さすが南北。
まあ、鶴屋南北が書いたそのままが上演されてゐるかどうかは定かではないがね。

映画・ドラマでもさうで、この俳優を見てみたいと思ひつつ、一度見て作品として好きにならなかつたものは二度・三度と見る気にはならない。
まれに「まあたまには見てみやうかい」といふので見て、「やつぱりこれぢやないんだよなあ」と思つてしまつたりする。

無論、作品としてはいまひとつでも、たつた一場面、たつたひとつのセリフのために見るといふこともないわけぢやあないのだが。
最近はなかなかそんな気力・体力もなくてね。

結局は気力・体力・財力か。

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