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Friday, 27 July 2018

イルカのショーと多様性

土曜日に京都水族館に行つた。
なぜかといふと暑かつたからだ。
京都は木曜日だかに三十九度を記録したのではなかつたか。

さういふわけで、同行してくれる友人に「京都水族館に行かない?」と持ちかけて、水族館行きが決まつた。

京都水族館の目玉はオホサンセウウヲと京都の海にゐる魚の展示ではないかと思つてゐる。
でもせつかく水族館に来たのだし、イルカのショーを見ることにした。
前回来たときも楽しかつたし。

ところが、今回のイルカのショーはなんだかしまらなかつた。
最初に旅の一座でいまは京都水族館にとどまつてゐるといふ五人組が出てくる。
手品師の座長は手品を披露しやうとするが、全然うまくいかない。
その他の四人はイルカと遊びたいといふやうなことを云ふが、座長は受け入れない。
あんまり四人が云ふことをきかないので、座長は拗ねてその場を去る。
そんな小芝居が延々とつづく。
正直云つて、こんなものは見たくない。
イルカのショーで見たいのはなにか。
イルカの演技だらうよ。
イルカが見たくて来てるのに、なぜなんだかよくわからない人間の小芝居を見させられなければならないのか。
一応、イルカは三頭水槽にゐて、泳いだりしてゐるのだが、それだつたらショーではないわけでね。水槽を見にいけばいいわけで。

さうかうするうちに、イルカのトレーナーが三人出てきて、やつとショーがはじまる。
トレーナーが一人一人自己紹介をして、自分のパートナーであるイルカを紹介する。
しかし、これがまたなにか妙なのだ。
三頭ゐるうちの二頭は、いい。
残りの一頭が妙なのである。

さういや五人の小芝居のあひだも、この一頭だけは泳いだりはせずに一カ所にずつととどまつてゐた。
疲れてしまつたのか、それともひきこもりかなにかなのか。
そんなやうすに見受けられた。

トレーナーが出てきても、このイルカはなかなか技を披露しやうとしない。
ほかのイルカがジャンプを見せたり握手してみせたりしても、このイルカだけはなぜかぽーつとしたやうすである。
ほかのイルカに注目が集まつてゐるときに、やつとトレーナーと握手をしたりしてゐる。

そして、トレーナーたちも、自分もふくめて観客たちも、そのイルカはさういふものなのだと受け入れてゐた。
すくなくとも自分にはさう感じられた。

イルカのショーである。
そこに出てきて、これといつた演技もしないイルカを、観客たちがさういふものだと受け入れてゐる。
考へてみればふしぎな状況なのだつた。

もしかすると、人間の小芝居が一役買つてゐたのかもしれない。
あんなものを見せられるより、演技は碌々できなくてもイルカを見てゐる方がいい、と、人々は思つたのかもしれない。

でもなんか違ふ気がする。
あのときあの場にゐた人々は、積極的とはいへず自分勝手ともいへるなにもしないイルカに「きみはそれでいいんだよ」といふ気持ちを抱いたのではあるまいか。
すくなくとも、何人かはさういふ人がゐたんぢやないかなあ。
なぜならやつがれがさうだからだ。

人の世もさうなるといいのにな。
その人がその人であることを受け入れられるやうな世の中。
或は世の中とはさうしたものなのかもしれない。
単に、やつがれがやつがれ自身であることを受け入れられないだけで。

あのイルカは、ショーに出ることになれてゐない新人(新イルカ、か)だつたといふ可能性もある。
いまごろはすつかりなれて、トレーナーの合図にあはせてさまざまな技を見せてくれてゐるのかもしれない。
でもあのときの、客を喜ばせやうなんてちぃとも考へてゐないやうな、マイペースなイルカの姿を、そしてそのイルカを受け入れてゐた自分のことを忘れずにゐたい。

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