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Thursday, 31 May 2018

字が汚いわけ

字が汚い。

なぜ汚いのか。

昔、「カリキュラマシーン」といふ番組があつた。
民放で放映されてゐた教育番組で、「りんごの数だけタイルを置かう」などと云つてりんごの数だけタイルを置いて数を数へてタイルは五個づつまとめるといつた算数的な内容や、「くつつきの「を」」だとか「♪ねぢれてねぢれて きゃ・きゅ・きょ」とだとかの国語的な内容などを取り上げてゐた。

「カリキュラマシーン」では、えんぴつの持ち方を教へることもあつた。
なかに、死にかけてゐるギャングのボスが手下に自分の云ふことを書き取らせるといつた状況でのえんぴつの持ち方講座があつた。
ボスは確か宍戸錠で、手下は渡辺篤史だつたか常田富士男だつたんぢやないかと思ふ。

手下が短いえんぴつを手にすると、ボスが怒鳴りつける。
「えんぴつは長いのを持て!」などと云つて。
また、手下のえんぴつの持ち方がなつてゐないと云つて叱りつけ、「えんぴつはな、かう持つんだ」と教へる。姿勢が悪い、とかもあつた。
そのうちボスはなにも伝へられずに死んでしまふ、といふやうな内容だつたんぢやなかつたかなあ。
違ふかもしれないけど。

こどものころ、やつがれはきちんとえんぴつを持てなかつた。
「カリキュラマシーン」を見てもムリだつた。
でも、正しいえんぴつの持ち方は「カリキュラマシーン」を見て知つてはゐた。

えんぴつの持ち方をなんとかしやう。
さう思つたのは、高校生になつてからだつたと思ふ。
字が汚いのはえんぴつの持ち方が悪いせゐなのではないか、と、遅まきながら気がついたからだ。

だが、えんぴつの持ち方を変へても、字はきれいにはならなかつた。
もしかしたら覚えてゐた内容が間違つてゐたのかもしれない。
さうも思つた。

その後、就職してから通信教育でペン習字を習つた。
このとき、やつがれ史上最高に字がきれいになつた。
練習するうちに、お手本に近いやうな字が書けるやうになつたのだつた。
そのころ旅券を新たに作つて、署名の字がお手本のやうになつてしまつて困つたことを思ひ出す。

さうなのか。
練習すれば、ある程度はきれいになるんだ。

だが、それも長くはつづかなかつた。
通信教育を終へて一年もすると、また字がもとに戻つてきてしまつたのだつた。
どうやら、日々お手本にあはせて練習しないと字といふのはどんどん劣化していくものらしい。
気がついたときには遅かつた。

その後もお手本を見ながら字の練習をしたりもしたけれど、定期的につづけて練習することができない。
もうあのときのやうな字を書くことはできないのだ。
そのときの字が自分の好きな字かといはれるとさうでもなかつたのでそれはそれでいいやうな気もするが。

でも読みやすい字が書きたいやね。

といふわけで、考へた。
なぜ字が汚くなるのだらうか。

ひとつは、書く前になにも考へてゐないからではないか、といふことだ。
書く前に、紙の上のどの位置にどんな字をどれくらゐの量書くのか。
さういふ見極めがないまま書いてしまふと、字の大きさや字と字との間隔、さうしたものがバラバラになつてしまふのではないか。
一休さんが、巨大な紙の上に「し」の字を書くといふ逸話がある。
一休さんは書く前に考へたと思ふのだ。
この大きな紙の上に「し」の字を書かう。
それにはどこから書き始めてどう書いたらバランスよくおさまるか。

あるいは毎年「今年の漢字」が発表されるときに清水寺のお坊さんがその字を書くときもさうなんぢやあるまいか。
この紙の上にこの字を書くにはどこから始めてどうまとめたらうまくバランスがとれるか。
さう考へてから書いてゐるものと思はれる。

だが、自分はそんなことはしてゐない。
文章全体もさうなら、一字一字についてもさうだ。
次にどんな字を書くか。
その字を書くにはなにに気をつけてどこから書き始め、どう書いたらうまくまとまるのか。
そんなことはまつたく考へないで書いてゐる。
だから字が汚くなるのぢやあるまいか。

ちよつとは考へてみたらどうだらう。
書き始める前に、いまから自分はなにをどう書くつもりなのか、そして、それを紙の上にバランスよくまとめるにはどうしたらいいのか。
さうしたら、すこしはまともな字が書けるのぢやあるまいか。

問題は、書きたいことといふのは書き出してから見つかることが多いといふことか。
つまり、書く前になにを書くかが決まつてゐないのだ。
だから行き当たりばつたりになつてしまふ。
それで滅茶苦茶なことになつてしまふんぢやないかなあ。

せめて次に書く一字のことくらゐはあらかぢめ予想して書くことにするか。
でもそれつてなんだかムカデが歩くときに自分の足の動きを意識するやうになつたら身動きがとれなくなつてしまつた、といふ話とおなじ結果になりさうな気がする。

書けなくなつたらそれはそれでいいのだらうか。

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