歌は世につれ
「傷だらけの天使」の再放送を見てゐてなにが楽しいといつて、当時巷に流れてゐた流行歌を聞くことだ。
中でも一番グつときたのがリンリン・ランランの「恋のインディアン人形」である。
「恋のインディアン人形」だよ。
最後に聞いたのいつだよ。
「おんなの道」だとか「なみだの操」、「襟裳岬」に「二人でお酒を」などといつた歌は、折りにふれて聞く。
……最近はさうでもないか。でも聞かないことはない。
「恋のインディアン人形」を最後に聞いたのはいつのことだらう。
ひよつとすると、二十年ではきかないくらゐ以前のことではあるまいか。
「恋のインディアン人形」が流れるのは第三話「ヌードダンサーに愛の炎を」だ。
ヌードダンサーたちの踊る背後に「恋のインディアン人形」が一瞬流れる場面がある。
かういふのがたまらないよねえ。
「傷だらけの天使」といふドラマ自体はどちらかといふと浪曲寄りにできてゐるやうに思ふ。
少し前の時代の歌にも関はらず「浪曲子守唄」が流れる回が何話かあるうへ萩原健一演じる木暮修が劇中で口ずさむ場面があるし、寿々木米若の「佐渡情話」をfeatureした第八話「偽札造りに愛のメロディーを」といふ回もある。
浪曲なんて古い、と、ドラマの放映された1974年時点でもすでにさうだつたのではあるまいかと思ふのだが、このころはまだまだ浪花節的なものが世間に残つてゐたのだらう。
そこに「恋のインディアン人形」ですよ。
異色。
違和感。
異世界。
と、そこまで云つたら云ひ過ぎなのは、これがヌードショーのBGMとしてかかるからで、半年前にリリースされた流行歌を取り入れたといふあたりが淫靡のはずがどこか明るい催しにぴつたりだ。
「あなたにあげる」とか「好きになつた人」とか、若い歌手の歌もないわけぢやないけれど、「恋のインディアン人形」にはじめつとした湿気がない。
見逃した回もあるので断言はできないが、このドラマの中ではちよつとめづらしい歌だ。
だからよけいに心わしづかみにされるんだよなあ。
そんなわけで、「傷だらけの天使」を見ながら「うわ、「浜昼顔」なんて久しぶり」だとか「「くちなしの花」だわー」とか、ドラマとは全然違ふところで盛り上がつてしまふ。
ドラマを作つた人たちの意図とはかなりはづれた見方だらうなあ。
でも楽しいからいいか。
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