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Wednesday, 21 February 2018

無教養な人間の考へる教養

教養とはなにか。
よくわからないな。
といふのが正直なところである。

自分に教養がないと思ふのは、品位に欠けてゐるからだ。
教養と品位とは切つても切れないものだ。
辞書で「教養」を引くと、第一義は「教へ養ふこと」に近い意味のことが書いてあつて、第二義には「広い知識を得ることで身についた品位」などといふことが書いてあつたりする。

なぜ突然教養などと云ひ出したのかといふと、平昌冬季オリンピックで中国の解説者が羽生結弦を称へた詩(のやうなもの)を口にした、その中に曹植の「洛神賦」の一説があつて、教養の深さを感じる、といふやうな感想があつたことによる。

それは教養なのだらうか。
それが教養なのだとしたら、交通渋滞にあつたやつがれが「時利あらずバス逝かず バス逝かずして奈何すべき ぐにゃぐにゃ何時に奈何せん」などと呟いてしまふのも教養か。
或は突然の雨に見舞はれて「七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだになきぞかなしき。でも傘はあるけどね」と呟いてしまふのも教養か。
遅刻したときに「遅なはりしは某が不調法」と云つてしまふのはどうか。

違ふ気がするんだよなあ。
中国のフィギュアスケートの解説者のことばはその教養の深さから来てゐると思ふ。
上に揚げた自分の例は違ふ。
深いところがないからだ。

この解説者のことばを受けて、「東京オリンピックのときには日本の解説者も源氏物語や和歌になぞらへた表現を使へるといいですね」といふやうな感想をいくつか目にした。
いや、ダメでせう、それができるならすでにしてゐるよ、といふのはまた別の話。
ロンドンオリンピックの閉会式で「エリック・アイドルさん、アーチストです」と全国に届く電波に乗せてしまつたアナウンサを重用するやうな放送局のある国でできるわけないでせう、といふのもまた別の話。
アナウンサがエリック・アイドルについて知らないのは仕方のないことだと思つてゐる。
誰にだつて知らないことはあるし、閉会式に誰が出てくるかわからない状態で仕事を任されたのだらうからアナウンサ自身に非はない。
問題なのは、あの開会式を見て閉会式に「モンティ・パイソン」のメンバが出てくるだらうといふ予測の立てられない放送局にある。
さういふ「教養」がないのだ、放送局自体に。
ムリでせう。

と、ムリだと考へたのは後付けのことで、それまでは「とりあへず、古典落語を聞けばいいのではあるまいか」と思つてゐた。
「七重八重」も「道灌」といふ噺に出てくるから覚えた。
和歌に限つていふと「崇徳院」とか「ちはやぶる(は、ちよつと違ふか)」とかもある。
故事来歴の出てくる噺もいくつもある。

さういふものを聞いてゐればおのづと教養は身につくのではあるまいか。
一瞬はさう思つたのだが、ことはさうかんたんでもないのかもしれない。
さういふ噺を作る人には教養がある。
でも聞く方には必ずしも教養は必要ではない。
「へー、太田道灌つてどんな人だつたんだらうな」などと気になつて調べるやうな人には教養があるし身にもつくのだらう。
でも、「おもしろいねえ」で過ごしてしまつて、噺で得た知識とその他の知識とがつながつていかない人には教養は身につかないやうに思へる。

もうひとつ、ムリだと思ふ理由に、「いまの世の中、記憶しなくてもWeb検索すればいい」といふ考へ方がある。
それはそのとほり、と思つてゐたが、和歌だの詩だのを読むやうになるとさうでないことがわかる。
和歌だとか詩だとかはとほり一遍に読むだけではダメで、あるていどは記憶しないと役に立たないのだ。
記憶して、をりにふれて口に出してみる。
或は書き出してみる。
さうできない和歌や詩は、読んだとはいへない。
そんな気がする。

やつがれの知る和歌や詩は、両手の指で数へられるていどの数しかない。
中国の解説者のやうになにかのときにぱつと引用できるやうなものがない。
それで「自分には教養がないなあ」と思ふのだ。
そしてさういふものは一朝一夕で身につくものではないやうに思へる。

などと、教養に欠ける人間がいくら考へてもムダなことか。
しかし、いまの世の中、教養は「ムダなもの」と思はれてゐるやうな気もするから、これはこれでまた一興かとも思ふ。

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