本に夢中になれない人生
先日、危ふく電車を乗り過ごすところだつた。
本を読んでゐたからだ。
これまで本を読んでゐたせゐで電車やバスを乗り過ごしたことは一度しかない。
集中力とか根気とかに欠けるので、なにか読んでゐてもつねに意識がふはふはしてゐるからだらう。
夜を徹して本を読むといふ経験もない。
夜を徹する前に読み終はるから、といふこともあるかもしれないが、単に寝てしまふのである。
夜を徹してラジオ番組を聞くことはあつた。
映画でもオールナイト上映会でずつと起きてゐることもある。
おそらく、本についてはいつでも手元にあるから即読まねばならないといふ気分にならないのぢやあるまいか。
そんなに夢中になるやうな本に出会つたことがない。
さうも云へる。
これまでそんなにたくさん本を読んでは来なかつた。
我が家は「本を読むんだつたら外で遊んできなさい」といふ家で、本を読んでゐても疎まれこそすれ、喜ばれはしなかつた。
自然、読む本の量もすくなくなる。
つまんない人生だな。
徹夜して本を読むことも、本を読んでゐて電車を降りることを忘れることもないなんて。
電車を乗り過ごすことがないのは、つねに alert な状態でゐるから、なのかなあ。
たとへば、仕事の打ち合はせの場合でも、終了時間どほりに終はらないと気がすまない。
世の中の人は、ちやんと結論なりなんなりが出ないとイヤなのらしい。
終了時間をむかへたといふのに、延々と打ち合はせをつづけやうとする。
これがダメなんだよなあ。
時間が来たんだから、やめやうよ。
最初から時間が決まつてゐるんだから、それにあはせて進行しやうよ。
いつもさう思ふ。
でも現実にはさうなることはほとんどない。
時間を過ぎても議論はつづき、次に会議室を使用する人が来たからといふので、これといつた結論も出てゐない状態なのに打ち合はせを無理矢理終へる。
どうせ結論が出ないのなら、時間がきたときに終はればよかつたのに。
そんな状態だから、打ち合はせの最中も始終時間を気にしてゐる。
時間に対して alert な状態にゐる。
でもほんたうはそんなのはイヤなのだ。
いつだつてどこでだつてぼんやりとしてゐたい。
alert な状態など願ひ下げだ。
本来はさういふ人間なのである。
然るに電車は乗り過ごさない。
日々、疲れるはずだよな。
もともとはぼんやりした人間なのに、ムリに alert な状態をたもつてゐるのだもの。
打ち合はせのときこそもつとぼんやりしてゐるべきなのだ。
「あと五分で終了時間だ」とかキリキリしてゐる場合ぢやあないのである。
囲碁や将棋ぢやあるまいし。
ところでいま読んでゐるのは Nabokov's Favorite Word is Mauve といふ本だ。
これが滅法おもしろい。
といふ話はいづれ書くかもしれない。
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