うつくし過ぎるペン
なにを血迷つてゐたのだらうか。
このペンを見てゐるとつくづくさう思はずにはゐられない。
このペンとは、モンテグラッパのピッコラである。
七、八年前、Pen and message. の店頭で求めた。
万年筆については、旧枢軸国産のものが好きである。
ほとんどは日本製だ。
次いでドイツ製。
ああ云つておいてなんだが、イタリア製は四本しか持つてゐない。
アウロラのオプティマとネブローザ。
デルタのドルチェ・ヴィータ。
そしてこのモンテグラッパのピッコラである。
最初に買つたのはオプティマで、次がドルチェ・ヴィータだ。どちらも書斎館で求めた。
ドルチェ・ヴィータを買ふときにお店の人が「イタリアのペンはむつかしいですよ」と暗にほかの国のペンにしませうよ、と勧めてきたのが忘れられない。
イタリア製のペンはうつくしい。
オプティマもドルチェ・ヴィータもネブローザも、そしてピッコラも、見てゐるだけで惚れ惚れするやうなペンだ。
ゆゑに、その外見に惹かれてイタリアのペンを買つていく人が多かつたのではあるまいか。
あとになつて「こんな書き味のつもりぢやなかつたんだけど」と戻つてくるお客さんがゐたのではあるまいか。
さう邪推してゐる。
ピッコラは、購入当初いいペンだつた。
日々楽しく使つてゐたのだが、あるとき書きづらくなつた。
どうやらインキづまりらしい。
ペン先を水につけておき水道水で流すといふのを何度かくりかへしてみたが、そのうちなにをしてもインキが出なくなつてしまつた。
先月上方へ行つたをりに Pen and message. にお邪魔して見てもらつた。
お恥づかしいことに、ほんたうにただのインキづまりであつたらしく、ほどなくしてペンはまた従来の書き味を取り戻した。
インキの粘度のせゐだらうか、ちよつとねつとりした書き味で、官能的ですらある。
細字ではあるものの、ペン先がちよつと平たいのではないかと思ふ。
ドルチェ・ヴィータ(細字)もさうだ。
スタブといふほどではないものの、丸研ぎではなささうだ。
この、微妙に縦の線と横の線との幅の違ふ感じがまたいい。
しかも細字であるといふのがさらにいい。
写真では軸に細かくキラキラしたものがうつつてゐるやうに見えると思ふ。
これは実際にさういふ軸なので、ぱつと見ると単に紺色だが、よくよく見ると夜空に星屑をまいたやうな柄になつてゐる。
ちいさいペンではあるけれど、手にすると重みがあつて書きやすい。
書くときに握るあたりの軸にはそれなりに太さがあつて、ゆつたり持つて書くたちなのでやはり書きやすくできてゐるなと思ふ。
いいペンなのに、なぜ「血迷った」などと云ふのかといふと、やつがれ向きではない気がするからだ。
なんでこんな洒落たペンを買つてしまつたのか。
自分でもさつぱりわからない。
インキが出なくて書きづらい時期が長かつたので、これから使つていくうちに「血迷つた」などと思はなくなるといいなと思つてゐる。
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