ひとのことばを書く
三月くらゐからあまり書かなくなつてゐる。
といふ話は先日も書いた。
書かなくなつた理由は書くことがないからだ。
書かなくなると、他人のことばを書くやうになる。
芝居のセリフとかね。
芝居でいへば外題とか。
あとは詩。
曹操の「短歌行」とかよく書く。長さが適当で覚えてゐるからだ。
なんだ、書いてゐるんぢやないか。
日記といはうかメモといはうか、さういふものは書かなくなつた。
でも、なにかしら万年筆を手にして紙に書きつけてはゐる。
「短歌行」とか一気呵成に書き散らすと、なんだか頭の中がすつきりした気分になる。
外題なんかもおもしろくて、書きながら「さと」といふのは「花街」と書くのか「廓」と書くのか、はたまた「曲廓」か、と思ひ出しながら書くのも楽しい。
「善知鳥安方忠義伝」なんて出てくるといい感じだ。
あと必殺シリーズのオープニングの文句とかね。
「ただしこの稼業、江戸職業づくしにはのつてゐない」とか。
「闇に裁いて仕置きする 南無阿弥陀」とか。
「黒船この方泣きの涙に捨て處無く江戸は均しく針地獄の様呈しをり候」とか。
楽しい。
なんだらう、この楽しさは。
つまり書いてはゐるわけだ。
手帳に残したいものではないけれども、書いてはゐる。
反故紙に好き放題に書く。
書くことはなんでもいいんだな。
ペンをとつて紙になにかしら書きつければそれで満足するのらしい。
問題はそんなに覚えてゐることがないといふことだ。
ここはひとつなにか覚えたいところだが、さて。
« 好きなことでも予定をたてる | Main | 主人公考 »
Comments