弾正考
お浄瑠璃やお芝居に出て来る「弾正」といふ名前の人はたいてい悪役と相場がきまつてゐる。
やつがれの知る範囲では「毛抜」の粂寺弾正がいい人(といふか悪い人ではない)で、あとはみんな悪い。
仁木弾正とか。
微塵弾正とか。
剣沢弾正とか。
といふやうなことをつぶやいたところ、「弾正といふのは正を弾くから悪い人だ」といふ説明を頂戴した。
それは如何にも悪さうだ。
例によつて根拠のない話で恐縮だが、以下はやつがれの想像した「弾正=悪人説」の所以である。
ひとつには、音が悪さうだから、だ。
やまとことばのうち、最初が濁点ではじまることばでいい意味を持つものは少ない。
いまぱつとあげることができなくて申し訳ないくらゐである。
しかも「だ」ときて「じ」だ。
悪さうな音がするでせう。
「大膳」といふ名を持つ人物にも悪役が多いことを考へると、そんなに間違つてもゐないんぢやないかと手前味噌ながら思ふ。
ほかに、弾正といふ役職が理由なのではないかとも思つてゐる。
弾ずるには、人の罪を責めただすといふ意味がある、と辞書にはある。
弾正といふのは弾正台といつて、犯罪などを取り締まつた警察機関だつた、ともある。
だからぢやあるまいか。
弾正といふ名を持つ人物を悪役に据ゑるのは。
時代劇の必殺シリーズを見てゐると、奉行所のお役人にはとんでもない人が多い。
仕掛けられたり仕置きされたり仕事されたり、つまりは、悪い人だから退治してくれ、と云はれてしまふ、そんな役人がたくさん出て来る。
「新・必殺仕置人」の与力陣を見てみやう。
岸田森にはじまつて、筆頭与力が今井健二、そのほか辻萬朝、西山辰夫ときて、とどめが清水紘治である。
どんな妖魔の巣窟だよ、といひたいやうな顔ぶれだ。
奉行所のお役人といふものは、とくに与力なんてものは、そんな存在なんだよ。
さういつてゐるかのやうだ。
皮肉だよね。
諷刺なのかもしれない。
弾正といふ名を持つ、すなはち(名前だけだけど)その役職にある人が悪役であるといふのと、必殺シリーズの奉行所の役人が悪人であるのとは、理由はおなじなのではあるまいか。
え、考へ過ぎ?
うん、まあ、さうかもしれないな。
« 人形劇三国志DVD鑑賞会 | Main | 6月の読書メーター »
Comments