飯田市川本喜八郎人形美術館 新・三銃士 その2
週末に飯田市川本喜八郎人形美術館に行つて来た。
六月二十五日まで展示されてゐる「連続人形活劇 新・三銃士(以下「新・三銃士」)」を見るのが目的だ。
昨日はホワイエに展示されてゐる帆船や鳥・馬・蜘蛛と噴水広場について書いた。
今日はスタジオの中について書く。
スタジオの中は、手前両側の壁際に小道具を展示したケースがひとつづつある。
入り口を入つて真正面には大きなセットを背景にして「新・三銃士」の人形たちが飾られてゐる。
迫力ある展示だ。
左のケースには、コンスタンスの裁縫道具や劇中に登場した手紙、本などが置かれてゐる。
奥には細長い建物も展示されてゐる。
コンスタンスの裁縫道具は、DMCのスペシャルダンテルが四巻ほど入つてゐた。
なるほど、スペシャルダンテルは人形サイズだな。
パステルカラーのものが三巻で、いづれも未使用。白い一巻は使用中でかぎ針編みのドイリーを編んでゐる最中といつたやうすだつた。
細かいことを云ふと、ドイリーと一緒についてゐるかぎ針はそのドイリーを編むには太すぎる。
誰かがもつと細い針で編んだのかなあ。
手紙は、細かい手書きの文字でフランス語つぽい。
ちよつと茶色がかつた紙にセピア色のやうなインキで書かれてゐる。
リシュリューの似顔絵もあつた。懐かしいなあ。
銃士たちの使つてゐるマグカップも飾られてゐる。
奥の左からアラミス用、アトス用、ポルトス用、手前が左がダルタニアン用。その横にプランシェの食べかけのりんごがある。
それぞれ趣が違つて各人にあつたデザイン、といひたいところだが、ポルトスのはちよつと小さいんぢやないかな。
あとダルタニアンのカップには中に金具が仕込まれてゐて、ここに布かなんかをひつかけて中身が入つてゐるやうに見せてゐたのではないかと思はれる。
ほかにも酒場シェークルで使はれてゐたコインなどの小道具やちよつとした装身具のやうなのも飾られてゐて、こもの好きにはたまらないんぢやないか。
本もミニチュアのやうな感じで、豆本好きとおぼしきお客さんが食ひ入るやうに見入つてゐた。
右のケースにはルイ十三世やアンヌ王妃、リシュリューやロシュフォール、ミレディーの持ち物が展示されてゐる。
ロシュフォールの短銃とそのホルスターがなかなかイカしてゐる。財布とおぼしきちいさく黒いポシェットもいい。
アンヌ王妃の持ち物の中にはダイヤの首飾りもある。人形の身につけるものだから当然なのだが、こんなに小さいのか、とちよつと驚く。
「人形劇三国志」や「人形歴史スペクタクル 平家物語」の展示には小道具だけを feature したものはあまりないやうに思ふ。
自分がみた中では、渋谷ヒカリエにある川本喜八郎人形ギャラリーの外のケースに「平家物語」で使はれた琵琶や扇子などが飾られてゐたことがあつたくらゐかなあ。
三国志や平家物語の展示の場合、登場人物が小道具を持つてゐることが多いやうに思ふ。
孔明が白羽扇を持つてゐたり、関羽が青竜刀、張飛が蛇矛、呂布が方天戟を持つてゐたり、とかね。
楽器も、経正が青山の琵琶を、敦盛が小枝の笛を持つてゐたり。
三国志や平家物語の人形は手でものを持てるやうになつてゐるからだらうか。
得物だけ並べた展示といふのも見てみたいやうな気もする一方で、人形が持つてゐるのも絵になるんだよなあとも思ふ。
スタジオの主たる展示は、左からバッキンガム公爵、アンヌ王妃、ルイ十三世、ボナシュー、コンスタンス。後方にアラミス、アトス、ポルトス、前方にダルタニアン、プランシェ。ロシュフォールにケティ、ミレディと護衛隊三名の総勢十四名と二匹だ。あ、護衛隊士の奥に馬がゐるから二匹と一頭かな。
トレヴィルとリシュリューとはゐない。至極残念である。
スタジオ内は人形やセットを保護するためかかなり照明が抑へられてゐて暗い。
バッキンガム公爵はアンヌ王妃の手をとつて、ふたりで踊らうかといつた風情だ。
王妃のとなりにルイ十三世がゐて、ひとりで踊つてゐるやうな態なのだが、王妃に語りかけてゐるかのやうな雰囲気もあり、見てゐてちよつとつらい。
ボナシューとコンスタンスとは銃士たちを見てゐるのかなあ。
ボナシューはコンスタンスを見てゐるやうにも見える。
コンスタンスの視線の先にゐるのはアラミスかな、といふ気もする。
かうして見るとボナシューの顔はかなり特異だ。
デフォルメされてゐるのに妙にリアルな感じがする。
顔の皺や唇の感じ、かなあ。
コンスタンスはちいさくて可憐に見える。
作中の気の強いやうすは影を潜めてゐるやうだ。
アラミスはまつすぐ、アトスは膝を曲げて足を広げた臨戦態勢、ポルトスはちよつと半身の気取つたやうすで剣をかまへて立つてゐる。
それぞれその人物らしいやうすだ。
その三人の手前のダルタニアンもアトスと似たやうな体勢で剣をかまへてゐる。
かうして見ると、主人公顔だよなあ、ダルタニアン。
とても余裕のかまへに見える。
その横にゐるプランシェも仲間のつもりなのかな。とても可愛い。
ロシュフォールは銃士たちの方を向いて立つてゐる。右手に剣を持つて銃士たちの方に向けてゐる。
スタジオが暗い中、白い顔に黒装束で顔に照明があたつてゐるのでロシュフォールの写真はひどく撮りづらかつた。顔が白くとんでしまふのだ。
かうして見ると、デカいし、黒いし、腕が妙に長いし、ひどくおそろしい存在に見える。
ちよつとエヴァンゲリオン入つてるよなあ、ロシュフォール。
腕の長さなら玄徳に負けないぞ。
ロシュフォールの手前にケティがゐて、プランシェをねらつてゐるのかといつたやうす。
その背後にミレディーが控へてゐる。
「わたしはミレディー ミレディー ミレディー 世界で一番いい女」などと「プリンプリン物語」のヘドロの歌を思はず口ずさんでしまふくらゐいい女だ。
「好きな色は赤と黒」かどうかは知らないが、血の色と罪の色といふのはミレディーにもふさはしい。
三銃士の人形は樹脂でできてゐて、人形の性格にあつた木目を描いてゐるのださうだが、木目の見えない髪の毛なんかも木製のやうに見えるんだよなあ。ミレディーの髪の毛もまさにさう。
ほかに美術館の方にうかがつた話だと、人形には球体関節を使用してゐて、手首や肘の部分などはわざと隠さないやうにしてゐるのだといふ。
人形といふことを明確にすることで、視聴者が感情移入しやすくなるといふ効果をねらつてゐるのだとか。
また、唯一木で作つた人形があつて、それは三谷幸喜をモデルにしたオレイリーなのだとか。
木で作ると湿気や温度などで大きさが変はつたりするが、一度しか登場しないオレイリーならいいだらうといふので作つたのだといふ。
「新・三銃士」にしても「パペットエンターテインメント シャーロック・ホームズ」にしても、話の最後がグタグダで、「それぢやあ三銃士ぢやないだらうよ」とか「モリアーティ教頭をおとしめると相対的にホームズもたいしたことのない存在になつちやふんだけどなー」とか、いろいろ納得のいかないところが多い。
でも、それは人形のせゐではない。
人形に罪はない。
シャーロック・ホームズの人形の行方は知らないが、三銃士の面々とはかうしてたまに飯田で会へる。
機会があつたらまた会ひに行きたいものだ。
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