歌舞伎のトワイライト・ゾーン
「綯ひ交ぜ」といふことばがある。
歌舞伎で二つ以上の世界を混ぜあはせて一つの作品を作ること、と辞書にはある。
七月に大阪松竹座でかかる「盟三五大切」は「五大力」の世界と「忠臣蔵」の世界とをあはせた綯ひ交ぜの狂言だ。さらに「東海道四谷怪談」を匂はせるやうなところもある。
かういふ芝居に弱い。
「五大力」であつて「五大力」ではなく、「忠臣蔵」であつて「忠臣蔵」でない。
どちらでもあつてどちらでもない。
ふたつの世界のあはひにあるやうで、そのどちらにもない。
登場人物の名前は「五大力恋緘」の登場人物や「仮名手本忠臣蔵」の登場人物とおなじだけれど、人物造形は異なる。
好きだなぁ、この感じ。
こんなにあからさまでなくても、「髪結新三」のやうにちらつと大岡政談がかいま見えたり、今月歌舞伎座でかかつてゐる「魚屋宗五郎」のやうに番町皿屋敷の影があつたりするのもいい。
このどちらの世界でもあつてどちらの世界でもないといふのが、実に「トワイライト・ゾーン」だといふ気がする。
「トワイライト・ゾーン」といふと、オープニング・テーマが有名だ。
「にににに にににに」と口ずさむと「ああ、あの曲か」と思ふ向きも多いかと思ふ。
この主題曲にかぶせて、ロッド・サーリングのナレーションが入る。
There is a fifth dimension beyond that which is known to a man.にはじまる、これも有名な文句だ。
この第五の次元は宇宙のやうに広大で無限のごとく果てしがない。
光と闇とのあはひ、科学と迷信とのあはひに存在するものだ。
人の恐怖の淵と知識の頂との間にある空想の次元。
人呼んで「トワイライト・ゾーン」。
この漢詩を思はせるやうな対句の連続がまづたまらない。
あるやうなないやうな、ぼんやりとした感じ。
twilight は辞書によつては日の出・日の入りどちらの時間帯もさすとある。彼は誰時とおなじやうなものだらう。
ことばの意味さへ不分明だ。
綯ひ交ぜの世界とは、この第五の次元、トワイライト・ゾーンのやうなものなのではあるまいか。
もともと芝居で世界を綯ひ交ぜにしたのはほかに理由があるものと思つてゐる。
ご見物に慕はしい内容をと思つた、とか。
しよつ中新作を作らねばならないのですでにあるものから借りてくることにした、とか。
このネタだつたらオレの方がもつとおもしろい芝居を作れるぜと思つた、とか。
それがまた違ふ効果を生んだのだらう。
「南北、好きー」と思ふのも、いろんな世界をもつてきててんこもりなところがいいんだらうな、やつがれにとつては。
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