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Friday, 07 April 2017

飯田市川本喜八郎人形美術館 項羽と劉邦展 その三

週末、飯田市川本喜八郎人形美術館に行つてきた。
今年は開館十周年といふことでさまざまなイヴェントや展示が予定されてゐる。
四月二十三日までは「項羽と劉邦」展が開催されてゐる。

今回は展示室であるスタジオの中央奥にあるケースと右側にあるケースについて書く。

中央奥のケースには始皇帝が、右側の壁沿ひのケースには奥から范増、韓信がゐて、一番手前のケースにはカシラばかり二十個展示されてゐる。

始皇帝は、思つてたよりも普通のをぢさんだつた。
皇帝の冠についてゐるビーズのぢやらぢやらでよく顔が見えないせゐかもしれないけれど、天下を統一した人の偉大な雰囲気などはあまり感じない。
衣装は立派で、竜を思はせるやうな柄が二、三種類取り入れられてをり、そこは皇帝らしい。
なんだらう、顔のパーツのひとつひとつが小さいのかな。目とか鼻とか口とか。とくに目。
始皇帝の周囲にゐる項羽や呂后の印象が強烈過ぎるのか知らん。

やつと会へたね。
范増の前に立つてしみじみさう思つた。
二年前、創業三十周年を記念して水戸エクセルで三国志展が開催された。
このとき、人形のできるまでを詳細に説明したパネルがあつた。
写真のモデルが范増だつた。
つまり范増のできるまでの説明だつた。
項羽と劉邦とは別冊太陽のムックの表紙にゐるからゐることは知つてゐた。
范増もゐるんだ。
あれから二年、やつと相見えることができた。

范増は左奥を見込んだやうすで躰はなんとなく右方向に行かうとしてゐるやうに見える。
項羽に愛想を尽かして去るところなのかな。
「項羽本紀」に登場する時点ですでに「七十」と書かれてゐる范増は、老人態に作られてゐて皺も深いしほかの人形のやうに華やかな衣装を着てゐるわけでもない。
衣装の色は、敢へていふとお茶色といつたところか。
灰色がかつてはゐるけれど、どこか緑を感じる色で落ち着いてゐる。
でも范増にはどこか生き生きした印象がある。
まだこれからバリバリ献策するぜ、といつたところなのかもしれない。
なにしろ仕官はしてゐないけれど策をたてるのが好き、とか書かれちやふくらゐだからね。

韓信は正面を向いて立つてゐる。
色のイメージは朱色と黒、もしくは藍色、かな。
韓信のおもしろいのは、後頭部中央部分の髪の毛を編み込んでゐることだ。
髪の毛を下からもちあげて編み込みにしてその先に髷を作つてゐるのだらうと思はれる。
カシラばかり並んだ中にも韓信のやうに編み込みにしてゐるものもあれば、三つ編みにしてゐるものもある。
かういふのも兵馬俑を参考にしてゐるのかな。
韓信からは落ち着いてゐてしづかな自信に満ちてゐるといつた印象を受ける。満ちてはゐるけれど満ちあふれてはゐない。
前回、劉邦のことを思慮深げと書いた。
韓信も思慮深さは水を張つたその表面が波ひとつたたずにしんとしてゐる感じ、かな。

カシラばかり並べたケースは縦に三列あつて、上が七、中が六、下が七の計二十個ある。
上段は左から陳勝、章邯、蒙恬、扶蘇、趙高、李斯、殷通。
中段は左から鯨布、懐王、項梁、虞美人、項伯、荊軻。
下段は左から陳平、蒯通、蕭何、張良、韓信、酈食其、夏侯嬰。

陳勝はたたき上げといふ感じ。蒙恬はどこかやんちやな武将。趙高はヤな宦官そのもので、李斯はちよつと理知的な感じ。殷通なんてそんなに出番はなからうに、と思ひつつ、話がはじまつたらわりとすぐ出てくるから作つてあつたのかなぁ。

鯨布はそのまま仁王像になりさうな顔つき。懐王は劉琦さま的なアレかな。項梁はお頭と呼びたいやうな感じで、虞美人は髪飾りの違ふヴァージョンなのだらう。項伯は項梁よりもおとなしめで色もちよつと白い。
おもしろいのは荊軻で、眉や髭のあたりを鉛筆で描いたのがそのまま残つてゐる。ちよつと見ると眉がひどく薄く見えるので酷薄さうだが、鉛筆のあたりを頼りに想像してみるときりつとした顔立ちになるのぢやあるまいか。

陳平はいい男。蕭何は冠が立派な心配性。張良は、これは橋で待たされたりしてゐた若いころのカシラなのかな。韓信は股くぐりとかしてゐたころのカシラだらう。髭とかないし。夏侯嬰がどことなく夏侯淵に似てゐて、思はず微笑んでしまふ。

カシラだけでもこんなにたくさん作つてあつたんだな。
説明によると、川本喜八郎がカシラなどに残してゐた鉛筆書きなどをもとに川本プロダクションの方々が「史記」や「漢書」にあたつて人物を特定したものだといふ。

あらためて見ると、「項羽と劉邦」には実現してもらひたかつたよなあとしみじみ思ふ。
今後は大切に保管されて維持されていくのだらう。
どこかで少しでも動くところが見られたらなあと思はずにはゐられない。

以下、つづく。

「項羽と劉邦」展その一はこちら
「項羽と劉邦」展その二はこちら

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