右手に糸をかけて編む
くつ下を編み始めてしまつた。
袖なし羽織はまだ半分も編めてゐないといふのに。
すこし前に久しぶりにあみものの本を買つた。
Knitting Scandinavian Slippers and Socks といふ本だ。
中を読んでみたら、トゥヴォーエンズスティックニングで編むものだつた。
トゥヴォーエンズスティックニングは、スウェーデンの伝統的なあみものの手法で、もともとは糸が弱いのを補ふために編み出したもの、と聞いてゐる。
昔は羊毛が貴重だつた。着古したセーターなどを繊維の状態に戻して糸を紡いだといふ。
これは想像だが、セーターなどはおそらくフェルト化してしまつてゐて糸をほどけるやうな状態ではなかつたのぢやあるまいか。
かうして作つた糸は弱い。
そこで、しつかりした編み地になるやうに二本の糸で編んでいく方法が生まれた、のらしい。
二本の糸で編むので編み込み模様が多いが、一色でも編む。
編み込み模様を編む場合、通常は主となる色ともうひとつの色とがあつて、糸を上に渡す方はつねに上、下に渡す方はつねに下になるやう編み、糸同士が交差することはない。
トゥヴォーエンズスティックニングの場合は、糸を代へるたびに次の糸を前の糸の上を渡す。
このときに糸に回転がかかるので、その方向からZ撚りの糸が適してゐるといはれてゐる。
棒針編みには普通はS撚りの糸といはれてゐるのと対照的だ。
題名には「Slippers」と「Socks」とある。
Slippers は並太の糸で編むことになつてゐて、丈は短くくつ下の上にさらに履くものといつた感じだ。
Socks は中細の糸で編む普通のくつ下である。
これを編んでみたくてね。
できれば Slippers の方を。
しかし、手持ちにちやうどいい太さの糸がない。
おそらくパピーのクイーンアニーくらゐがよささうなのだがなあ。
仕方がないので、多少細いがイエーガーのマッチメイカーDKを出してきた。
で、編み始めたのが Wheel-of-Hearts Slippers である。
作り目は八の字の作り目なのでとくに目新しくはない。
問題なのは、右手に糸をかけて編む、といふことだ。
普段は左手に糸をかけて編んでゐる。
右手に糸をかけて編む方法もやつたことがないわけではない。
一時、メリヤス編みと裏メリヤス編みとで手の加減が変はることで悩んでゐた。
右手に糸をかける方法で編むと、メリヤス編みも裏メリヤス編みもおなじテンションで編めるときいて、試してみたことがある。
でもまあ、目がそろふところまでつづけられなかつたんだな。
右手の動きが忙しないのがダメだ。
針を編み目にいれて針から手を離し、糸を手にして針にかけて糸から手を離し、また針を手にして糸をひつかけたまま編み目から抜く。
シェットランド諸島の早編みの人が編むさまなどを見てゐると、この一連の作業が実になめらかで針や糸から手を離してゐることなどまつたく感じられないのだがなあ。
今回はちよつとやつてみるかな、といふので、果敢に右手に糸をかける方法で編んでゐる。
だから編み目も全然そろはない。
かういふときに己の不器用さを思ひ知る。
編み地はとてもふかふかとしてあたたかさうだ。
できあがるころにはもうこんなものは必要ないかもしれないが、まあ、必要だから編むわけぢやあないのでそれはいいのだ。
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