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Wednesday, 22 February 2017

きもちの問題

鎮静剤を求めるかカンフル剤を求めるかと訊かれたら、カンフル剤を求めるたちである。

その昔、小田晋はかう云つてゐた。
「かつての日本人はコカイン系より覚醒剤系を好んだ。
ぼーつとだらけた状態よりもヒロポンを打つて冴えた頭で遊んだり働いたりする方を求めた。
ところが最近はコカイン系が好まれつつある」

「最近」といふのは三十年前のことだ。
ニュースで耳にするのはあひかはらず覚醒剤の方が多いやうに思ふ。
実際のところは知らないけれど。
案外人の嗜好といふのはおほきくは変はらないものなのかもしれない。

ここでいふ「鎮静剤vsカンフル剤」と「コカイン系vs覚醒剤系」とは相似の関係にはない。
おそらく、世の中の人はカンフル剤より鎮静剤を求めてゐる。
「癒し」とか「癒される」とかいつてゐるのがさうだ。
神経を興奮させるよりなだめたい。
ぼーつとしたい、といふのは云ひ過ぎか、ほわほわといい気分になりたい。
さういふ人の方が多いやうに思ふ。

覚醒剤など摂取しなくても日々キリキリと過ごしてゐる人にはカンフル剤よりは鎮静剤の方が必要なのだらう。

自分に癒しは必要ないと思つてゐる。
別段病んでもゐないし傷ついてもゐない。
慢性的に疲れてはゐるが、それは睡眠不足たからで、それさへ解消されればかなり元気になれる自信がある。
解消されることがないので実際はどうなのかわからないが。
ゆゑに必要なのは十分な睡眠と、十分な睡眠をとるに足る環境といふか状況であつて、癒しではない。

だいたい、好きになるものがどちらかといふと神経を興奮させるもの、させがちなものばかりな気がする。

ソナタ形式でいふと第二楽章が比較的好きになるのは落ち着きたい系なのかもしれない。
それくらゐかなあ、ぱつと思ひつく「鎮静剤系」で好きなものといつたら。
囲碁とか将棋とかは一見落ち着いてゐるやうに見えて、あれはいくさだからね。
見た目ほど「鎮静剤系」ではない。

歌舞伎に出てくる登場人物で好きなのは仁木弾正だ。
好きな演目は「寺子屋」。
映画やTVドラマもどちらかといふとわーつと盛り上がる方が好きで、穏やかな日常生活の一コマを切り取りましたといふやうなものは自分には関係ないと思つてしまふ。

日曜日も新文芸坐で「赤穂城断絶」と「柳生一族の陰謀」とを見てかーつとなつてきたところだしね。

ふだんからぼーつとしてゐるからだらうな。
常態がぼんやりしてゐるので、これ以上鎮静剤は必要ない。
摂取したところで効きめもないのだらう。

カンフル剤を求めるのは理にかなつてゐるわけだ。

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