もう森へなんか行かない
今年自分でしたことで一番驚いたことといふと、映画館でホラー映画を見たことかもしれない。
その昔、友人につれられて「トワイライト・ゾーン」を見に行つたことがある。
でもあれはそんなに怖くなかつたなあ。
だいたいロッド・サーリングが出てこない時点でそんなに怖くない。
後年見たTV番組の「ミステリー・ゾーン」の方がずつと怖かつた。
とはいへ、この映画を見たあとは「絶対飛行機の翼の見える位置には乗らない」とかたく心に誓つたものだつたし、「Wanna see something really scary ?」とか口のない女の人とかちよつとトラウマ的に残つたものはある。
さう、TVでは怖いものを見たことがある。
「ミステリー・ゾーン」といふか「トワイライト・ゾーン」といふかは怖がりながら見たし、映画では「サイコ」とか「シャイニング」とかも見た。
古谷一行が金田一耕助を演じてゐた横溝正史ものも大概怖かつたし、天知茂の明智くんシリーズも怖かつた。
なぜ見たのかといふと、いづれも明るいところで一緒に見る人が複数人ゐたからだ。
和物のいはゆる怪談みたやうなものは見たことないかもしれないなあ。
うつかり見ちやつた「まんが日本むかしばなし」の「船幽霊」とかくらゐかな。
あとは芝居で見る「東海道四谷怪談」とか「真景累ヶ淵」とか「かさね」とかだらうか。
松竹座で中村時蔵の豊志賀を見たときは、絶対怖いからといふので三階席の一番奥の席を取つて、それでもなほ怖かつた。
怖いものはダメなのだ。
幽霊屋敷にも入つたことがないしね。
「エクソシスト」「オーメン」「サスペリア」「13日の金曜日」……いづれも見たことがない。
ホラーぢやないけど「2001年宇宙の旅」もとくに最後の部分が怖かつたりするし(「シャイニング」の影響だと思はれる)、「宇宙大作戦」もどことなく雰囲気が怖いことがある。
「ツイン・ピークス」もなぜだかおそろしかつたなあ。
人生損してゐるのかもしれない。
さう思はないでもないけれど、怖いものは仕方がないのだつた。
それが、映画館で、ホラー映画を見る。
なんといふことでせう。
見たのは「呪いの館 血を吸う眼」で、新文芸坐で夜明け前に見た。
岸田森オールナイト上映会の最後の一本だつた。
もう、映画館でホラーは見ない。
これまたかたく心に誓つた。
そのはずだが、よくよく考へてみると、この映画はそんなに怖くはない。
なぜかといふと、襲はれるのは美女ばかりだからだ。
運送会社の運転手は襲はれたのだらうし、をぢいさんも襲はれてはゐたけれど、それはちよつと特殊な例のやうに見受けられた。
なんだ、大丈夫ぢやん。
怖くないぢやん。
ホラー映画が怖いのは、「いつかおなじことが自分の身にもふりかかるかもしれない」といふ気がするからだ。
とくに映画館で見る場合、真つ暗な中で見るわけで、ふつと横を向いたら吸血鬼がゐたりするかもしれないといふ恐怖は捨て難くある。
恐怖ではないのかな。不安かな。
ホラー映画などを見ておそろしいと思ふ気持ちはおとなになると段々薄れていくものなのらしい。
すくなくとも「あれはフィクションである」と認識できるやうになる。
怖いけど、でも、映画だからさ。
さういふ割り切りができるやうになるといふのだ。
それができないおとなは、不安神経症の場合があるといふ。
不安神経症。
いやー、ないな。
多分ない。
そもそも神経症に陥るやうな繊細さは持ち合はせてゐない。
といふことは、即ちやつがれはまだこどもだ、といふことだ。
身体はともかく、精神的にはまつたく成長してゐないのだ。
なんといふことでせう。
まあ、でも、やつぱりもう映画館でホラーは見ません。
暗闇で怖いものを見るだなんて、ぞつとしないからね。
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