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Wednesday, 14 December 2016

どーでもいい忠臣蔵

毎年この日は柳亭市馬の「俵星玄蕃」を聞くのが楽しみだつた。
一昨年くらゐまでかな。聞けたのは。

市馬師匠の「俵星玄蕃」を聞くと、なんとなく幸せな気分になる。
なんとなく、ぢやないか。
明らかに気分が昂揚する。
歌ふ市馬もうれしさうなら、聞く客席も楽しさうだ。
ホール全体に広がる多幸感。
その場にゐる人々と「一体となつて」なんていふのは、親しい間柄の中にゐても厭うてしまふのに、あのときばかりは「ああ、よかつた。今年も師匠の「俵星玄蕃」が聞けて」とにこにこしながら家路に着いたものだつた。

赤穂浪士の討ち入りは旧暦のことなので、実際は今日この日ではない。
雪も降つてゐなかつたといふ話もある。
実際の赤穂浪士の討ち入りと「仮名手本忠臣蔵」とでは一致するところは少ない。
なにしろ、お浄瑠璃では実名は遣へなかつたし、時代も変へて作つてゐる。
物語自体も、お軽勘平といつたどーでもいい感じの人々が取り上げられたり、殿中で浅野内匠頭(塩冶判官)を抱き留めた梶川与惣兵衛(加古川本蔵)がクロースアップされたりする。
その後もいろいろな逸話がつけたされたりして、もうすでになにがほんたうなのかよくわからなくなつてゐる。
そこで「実際の赤穂浪士の討ち入りはかうだつた」と考証する向きもあるわけだが、それはどうでもいいかな、といふ気もする。
「実際の赤穂浪士の討ち入りはかうだつた。「仮名手本忠臣蔵」や講談、浪曲に残る話のあれこれは間違ひだらけ」などと声高にいへばいふほど、巷間伝へられた物語の数々が潰えていく。
そんなの、どうでもいい?
昔から語られてきた物語といふのは、共通認識となつて人々の中で生きてゐる。
なくなつてしまふと、そこで共有してきた情報が減つてしまふ。
そんなの、どうでもいい?
書いてゐてなんだかそんな気がしてきた。

我が家は、長いこと赤穂浪士や忠臣蔵に関わるTVドラマなどを見ない家だつた。
母が「忠臣蔵はもう飽きた」といふからだつた。
忠臣蔵を知らずにやつがれは育つた。
さすがに「殿中でござる」とか「遅かりし由良助」くらゐは知つてゐたけれど、全体の流れのなかで知つてゐるわけではなかつた。
その後、だいぶ年を取つてから年末に放映されたTVドラマの忠臣蔵だとか映画の忠臣蔵のTV放送を見た。
中山安兵衛の高田馬場の敵討ちなんかも知つたのは結構大きくなつてからな気がする。
南部坂雪の別れとか赤垣源蔵徳利の別れとか、それこそ「俵星玄蕃」だつて全然知らなかつた。

それで、なんとかなるんだよね、不思議なもので。
いまは知つてゐるわけだしさ。
小説もいくつか読んだ。
海音寺潮五郎の義士ひとりひとりを主役にしたオムニバス短編集みたやうなのが好きだなあ。
不和数右衛門とか、うつかり泣けてしまふ。

しかし、なんとかなつてゐるのは、「忠臣蔵」といふ共通認識が断絶しかけたのが我が家といふちいさい単位でのことだつたからだ。
我が家のなかで断然しかけてゐても、世間はさうではなかつた。
あひかはらず年末になると「忠臣蔵」関連のTV番組がある。
やれ、内蔵助はほんとはちいとも役に立たない男だつたの、いやいや、ほんとにすごかつただの、内匠頭は名君だつた、いや、やつぱりバカ殿だつた、吉良上総介は地元ではいいお殿さまだつた等々、かうして書いてゐても「どーでもいいんぢやない、そんなことは」といふことまであれこれ放映したりする。

どーでもいいけど、でも「仮名手本忠臣蔵」がかかればやはり見てしまふし、市馬師匠で聞けないのなら探して三波春男の「俵星玄蕃」を聞いたりする。
東映の「大忠臣蔵」とかね。見ちやふよね。

そんな感じで、とりあへず「忠臣蔵」は安泰なのだらう。
鍵屋の辻はどうなのかな。
富士の巻狩りはもう忘れられて久しい気がする。
それはそれで仕方がないのだらう。

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