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Wednesday, 21 September 2016

ゆらぐ世界の「ウルトラ仲蔵」

九月十八日(日)、国立演芸場の第69回扇辰・喬太郎の会に行つてきた。
この回は、互ひにネタ卸しを一席づつ、それとは別にもう一席づつ披露することになつてゐる。

別にもう一席の方で、柳家喬太郎がかけたのが「ウルトラ仲蔵」だつた。

といふわけで、この先「ウルトラ仲蔵」の核心に触れる部分があるのでネタバレを厭ふ向きにはこれでおさらばでござんす。

「ウルトラ仲蔵」は、古典の「中村仲蔵」をウルトラマンの世界にうつした噺、とでもいはうか。
「中村仲蔵」では梨園の出身ではない中村仲蔵が役者として大成し、いまも(若干)残る歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」五段目の斧定九郎の型を生み出して名声を得るといふ噺だ。
「ウルトラ仲蔵」は、歌舞伎役者ではなくてウルトラマンのひとり・ウルトラ仲蔵がウルトラマンとしての地位を確立するまでの噺である。

「ウルトラ仲蔵」の世界は、基本的にはウルトラマンの世界だ。
数多存在するウルトラマンのなかのひとりであるウルトラ仲蔵は、いつかは地球で怪獣と戦ひたいと願ひつつ、無人の惑星の防衛に励んでゐる。
そこそこ認められてはゐるのだが、いまひとついい星にはありつけない。
そんなある日、アール星でバルタン星人を退治するといふ任務を帯びる。
アール星なんて人も住んぢやゐないし、バルタン星人なんてスペシウム光線でかたづく相手とわかつてゐる。
見せ場がない。
でも、もしかしたら、ここで工夫をすることができたら、自分も認められるんぢやあるまいか。
といふわけで、ウルトラ仲蔵は妙見さまに願掛けに通ふのであつた。

ウルトラマンが妙見さまに願掛けに通ふ。
なんだよ、それ。
ここから本仕掛けがはじまる。

妙見さまの満願の日、なにも工夫の思ひつかないウルトラ仲蔵はそば屋に行く。
外は雨。
そこに、黒い着流しを尻つ端折りにして白献上の帯を締め、朱鞘の大小をさした浪人態のケムール人があらはれる。
まんま「中村仲蔵」なわけだが、ケムール人といふ人選(怪獣選)がいい。
ケムール人が触覚についた雨滴を払ふと、仲蔵のところに水滴が飛んでくる。
仲蔵は顔を上げてケムール人を見る。
やうすがいい。
黒の着流しと書いたが、すでに着古して羊羹色になつてゐて、白い紋も薄茶けてゐる。
これだ。
これだよ、と仲蔵は思ふ。
妙見さまの御利益だ。

といふ、この場面が、とにかくたまらならかつた。
「中村仲蔵」かと思ふと「ウルトラ仲蔵」なんだよ。
妙見さまに願を掛けて、なにも工夫が思ひつかぬままにそば屋に行くのは中村仲蔵だ。
外は雨で、そこに黒い着流しを尻つ端折りにして白献上の帯(噺によつては茶献上を芝居の時には白献上にする)に朱鞘の大小をさした浪人が入つてくるのも「中村仲蔵」。
その浪人が髪についた雨を払ふのもさう。
そんなわけで、「いま自分は「中村仲蔵」の世界にゐるんだな」といふ気になつたかと思ふと、ふつとウルトラマンの世界に引き戻される。
たとへばウルトラ仲蔵はそばを一本一本たぐる。「でも口は開かない」とかね。
ケムール人が酒を頼んで触覚から摂取するとか。
「中村仲蔵」の世界にゐたはずなのに、気がつくとウルトラマンの世界にゐる。

この、足下の一瞬ゆらぐ感覚。
ゆるぎない大地をしつかりと踏みしめてゐたはずが、いきなり不安定になる。
この感覚。
これだよこれ。
「自分が確かだと信じてゐたものが実はさうではないかもしれない」といふ、刹那のあひだ不安に揺れるスリルとサスペンス。

日常に潜む怪奇/異世界/異次元を垣間見る感じといふのは、なんだかウルトラだ。
ウルトラマンシリーズにもあつたけれど、「ウルトラQ」の方がそれつぽいかな。「怪奇大作戦」もかな。

喬太郎の新作落語「孫帰る」には百八十度回転させられるといはうか、頭と足との天地をひつくり返されるやうな感じがある。
「ウルトラ仲蔵」は、それよりももつと subtle な、「あれ? いまの、なに?」といふ感じかな。
かういふのに弱いんだよなぁ。

鈴本演芸場で催された「ウルトラ喬タロウ」には行けなかつたのだが。
その後「あの頃のエース」と「ウルトラ仲蔵」とを聞くことができた。
今年はウルトラマン五十周年で、来年はウルトラセブン五十周年だ。
まだ聞けるかな。
聞けるといいな。

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