並行宇宙の「シン・ゴジラ」
「シン・ゴジラ」の世界には、映画「ゴジラ」は存在しない。
あの映画の世界の人々は、ゴジラを知らない。多分、メカゴジラもキングギドラもガメラやモスラもゐないんぢやあるまいか。
ゴジラを知つてゐたら、怪獣をゴジラと名付けるときにあんなに不思議さうに名前を口にしないし、もつと早くに「ゴジラ。似てゐるな」といふやうなせりふがあつたはずだ。
あの世界にはウルトラマンシリーズもないだらう。
あつたとしたら、怪獣が出現したときに「ウルトラマンに出てくる怪獣に似てゐる」といふ反応があるはずだからだ。
あの世界にも円谷プロダクションはあるだらう。
なにを撮つてゐたのかなあ。
「怪奇大作戦」とかその路線ばかりなのだらうか。打ち切りになることなく、延々とシリーズがつづいてゐたりして、岸田森が大活躍してゐたりするのか。
ウルトラマンシリーズがないとしたら、「パシフィック・リム」もないな。
さう考へると、「シン・ゴジラ」の世界は、現実世界からちよつと位相のそれた世界、並行宇宙でのできごとのやうな気がしてきて、クラクラしてしまふ。
「それを云つたら大抵のフィクションはさうでせう」といふ話になるとは思ふ。
でもちよつと違ふんだな。
なにもかも現実世界そのままで、でもある一点がちよこつと違ふ。
さうすると、もしかするとその世界は現実でもあり得たわけで、さらにはあの世界に存在する自分といふのがゐて、得体の知れない巨大生物の動向にハラハラドキドキしてゐるかもしれない。
そんな気がしてしまふのだ。
ウルトラマンシリーズがなかつたら、こどもの時なにを見て育つたらう。
仮面ライダーか。
なんとなく、東映の特撮ヒーローものはあの世界にもありさうな気がする。
でも戦隊ヒーローものの敵は巨大化はしないんだらうな。
してたら「アレに似てゐる」といふ話に絶対なるもの。
さういふバカバカしいことをつひ考へてしまふ。
BBCのTVドラマ「SHERLOCK」でもさうだつた。
「SHERLOCK」の世界では、コナン・ドイルはシャーロック・ホームズものを書かなかつたことになつてゐる。
コナン・ドイルといふ作家は過去に存在して、「ロスト・ワールド」ものとかは書いたのかもしれない。
でも、シャーロック・ホームズものは書かなかつた。
書いたとしても世には出ず、出たとしてもすぐ消へてしまつた。
あれはさういふ世界の話だ。
エドガー・アラン・ポーはゐて、オーギュスト・デュパンを世に遺しはしたらう。
ホームズではなくて、なにかしら似たやうな名探偵の出てくる探偵小説があつたりはしたのかもしれない。
ひよつとすると、モーリス・ルブランもアルセーヌ・ルパンシリーズは書かなかつたんぢやあるまいか。
なんかわりといきなりクリスティだのクイーンだのが出てきたりしたつてことも考へられるよな。
あのドラマを見てゐると、つひつひそんなことを考へてしまふ。
ほんのわづかの違ひから生まれる違和感がたまらなく楽しい。
ちよつと足下のゆらぐ感覚がする。
いま生きてゐるこの世界とは別の、ゴジラとかシャーロック・ホームズとかの存在しない世界があつて、いま自分はスクリーンやTV画面からそれを覗いてゐるのぢやあるまいか。
「シン・ゴジラ」の世界の人々は、ゴジラを知らない。ウルトラマンも「パシフィック・リム」も見たことがない。
その代はり、なにかおもしろいものを見てゐる。
そのはずだ。
それはどんなものなのかなあ。
確認しに、二度めを見に行くことにしやうかな。
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