飯田市川本喜八郎人形美術館 江東と荊州 その二 2016
6/4(土)に展示替へのあつた飯田市川本喜八郎人形美術館について書く。
今回は「江東と荊州」のケースのうち「荊州」について。
「江東と荊州」のケースは右半分が荊州になつてゐる。
左から後列高いところに蔡夫人、劉琮、劉表、前列低いところに蔡瑁、劉琦がゐる。
荊州側は、江東側よりも明るい。
照明の関係だと思ふ。
明るい照明に家庭内の問題がくつきりと照らし出されてゐる。
江東は結束のかたい感じなのに、荊州はなんだかバラバラ。
そんな風に見える。
蔡夫人は劉琮のやや後ろにゐて、劉琮になにごとか囁きかけてゐるやうに見える。
なにごとか暗示をかけてゐるやうでもある。
「いづれ荊州はお前のものだ」「劉表の跡を継ぐのはお前だ」みたやうな。
やつてそー。
蔡夫人は見るからにやつてさうだ。
劉琮はといふと、「それでいいのだらうか」といふ面持ちなんぢやないかな。
どこか戸惑つてゐるやうに見受けられる。
劉琮は自分の立場をどう思つてゐたのだらう。
母である蔡夫人や叔父(人形劇では伯父)の蔡瑁に云はれるがままに「いづれ荊州は自分のものになる」と思つてゐたのか。
はたまた、「そんなことはできない」と思つてゐたのか。
人形劇だと劉琦をたててゐるやうに見えるんだけどな。
それで母親のことばをどう受け止めたものかわからないといつたやうすに見えるのだらう。
蔡夫人と劉琮との前には蔡瑁がゐる。
美術館の方のお話だと、蔡瑁には今回の展示のうち人形劇の人形で唯ひとりだけほかの人形と違ふところがあるのだといふ。
是非行つて確かめていただきたい。
蔡瑁は、向かつて右側やや前方にゐる劉琦を見てゐる。
見てゐる、といふよりは、様子をうかがつてゐる、といつたところだらうか。
人形劇の蔡瑁については何度か書いてゐるやうに、あのなんともこすつからい感じが気に入つている。
巨悪といふことばがあるのなら、小悪、または狭悪、矮悪、そんなことばがあつてもいいんぢやないか。
人形劇の蔡瑁にぴつたりだ。
そして、蔡瑁の云ふことはそんなに間違つてはゐない。
荊州のためを思つたら玄徳を中に入れてはいけない。
いや、荊州のため、ぢやないか。
劉表とその家族とが安泰に荊州で暮らしていけるやうにしたいなら、玄徳を荊州に入れてはいけない。
至言である。
まさにそのとほりだ。
いいこと云ふぢやん、蔡瑁。
ただ、人形劇の主役は玄徳だから、間違つてゐるやうに聞こえてしまふけれども。
そんなわけで悪役の蔡瑁は、ひどく疑り深さうな表情で劉琦を見てゐる。
こんな男に荊州を渡せるか。
いや、それとも、こんな男に荊州を任せられるか。
さう考へてゐるやうにも見えるし、一方で「大丈夫か、こいつ」と胡乱な相手を見てゐるやうにも見える。
袁紹のところで書いたとほり、蔡瑁のくつは新たに作りなほされたものだといふ。
そこも今回の蔡瑁のポイントだ。
蔡夫人と劉琮との右隣には劉表が立つてゐる。
劉表は右前方にゐる劉きを見つめてゐる。
劉表は劉琦に自分の跡を継がせるつもりでゐる。
「頼んだぞ」といふ信頼のまなざしか。
さう思ひたいところだが、違ふな。
なんとなく心配さうなやうすに見える。
それは劉琦のやうすがなんとも頼りないからかもしれない。
劉表自身は、跡継ぎは劉琦と決めてはゐるのだらう。
でも、蔡夫人や蔡瑁からあれこれ云はれて、心が揺らいでゐる。
そんなやうすに見える。
劉表よ、貴方がしつかりしなくてどうする!
跡目問題について劉表がグダグダなのが荊州の問題だよな。
そして、このケースの「荊州」の展示もそれを表現してゐるやうに思ふ。
ケースの一番右端手前に劉琦が立つてゐる。
顔をうつむけ、憂ひにしづんでゐるといつたやうすだ。
「人形劇三国志」の誇る憂愁の貴公子の面目躍如たるものがある。
なんちやつて。
人形劇の劉琦さまといへば「人形劇三国志一シケの似合ふ男」だ。
個人的にさう思つてゐる。
シケとはほつれ毛のことだ。
劉琦は赤壁の戦ひも終盤にさしかかると体調をくづつすやうになる。
それで額にほつれ毛がかかつたりして、そのさまがなんともいい。
憂愁の貴公子だからなー。
黄色がかつた地に色とりどりの牡丹の花を散らした華やかな衣装を身につけてゐるんだけどなー。
悩める若者にしか見えない。
衣装が華やかだからより憂愁も深く見えるのかも。
おそらくは、蔡瑁や継母の蔡夫人が自分を亡き者にしやうとしてゐることを憂へてゐるのだらう。
「荊州」の全体的な雰囲気が各人バラバラに見えるのは視線の向きも関係あるのかな。
「江東」と並べて見るととてもおもしろい。
以下、つづく。
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