飯田市川本喜八郎人形美術館 宮中の抗争 2016
6/4(土)に展示替へのあつた飯田市川本喜八郎人形美術館について書く。
今回は展示室を入つてすぐ向かつて左手の「宮中の抗争」のケースについて。
「宮中の抗争」のケースには、向かつて左から段珪、趙忠、張譲、蹇碵、何進、何后、董大后、弘農王、陳留王がゐる。
段珪から何進までで一場面、何后と董大后とで一場面、弘農王と陳留王とで一場面といつたやうすだ。
段珪、趙忠、張譲の三人は、左側低い位置から蹇碵が何進を倒すのを見てゐるといつた趣だ。
「見てゐる」は違ふかな。
四人して何進を追ひつめ、蹇碵が何進を殺さうとしてゐるといふ場面のやうに見える。
十常侍の人々がそろふと、それぞれちやんと役割があるのが見てとれる。
段珪はちよつとお年寄りのヴェテラン宦官。
趙忠は、おそらく当初の目論見としては十常侍のリーダーとして作られたのぢやああるまいか。ひとりだけ顔が白いし、目にもガラス玉が使はれてゐる。「人形劇三国志」では蹇碵がその役割をになつてゐるけれどもね。
張譲は若手のムードメーカー。
蹇碵は海千山千の宦官の長、といつたところか。
蹇碵は剣を手にして何進に向かつてゐる。
きつい顔つきのためか、なんだか迫力がある。
何進は、もう一太刀くらつたところだらうか。浅手ではあらうけれど。
それとも、ここまで自分の思ひどほりに進んできたと思つてゐたところに、いきなり宦官からの抵抗にあつて戸惑つてゐるところなのか。
何進・何后・董大后・弘農王・陳留王の五人は前回の展示にもゐた。
前回の何進は、弘農王と陳留王とになにやら話しかけてゐる趣の何后を見上げてゐた。
その表情からは何を考へてゐるのかよくわからなかつた。
霊帝崩御の前後で、これから先のことをいろいろ考へてゐたところだつたのかな。
さうすると、今回は前回考へてゐたことが実現しやうといふところに邪魔が入り、己が命も失はれやうといふ場面にも見える。
何后は董大后を毒殺しやうとしてゐるところなのだらう。
何后は高いところに立つて、低いところで倒れてゐる董大后を見下ろしてゐる。
何后は水差しを持つてゐる。
董大后のそばにはのみものの入つてゐたらう器がころがつてゐる。
水差しの中に毒を仕込んだのみものが入つてゐて、董大后はそれを飲んだといふところだらう。
「人形劇三国志」では、董大后は徐々に毒をもられて次第に弱つていく、といふ展開だつた。
そこはチト異なるが、今回の展示のこの場面、ことに何后がすばらしい。
いままで何度か何后を見てきたけれど、こんなにいいと思つたのははじめてだ。
人形劇に出てきたときだつてこんなに注目したことはなかつた。
何后はすつくと立つてゐる。
髪の毛の盛り方がもともと上に向かつてゐることもあつて、縦に長く威厳あるやうに見える。
そしてなんともドラマティックだ。
まるで女優のやうである。
それも、二時間ドラマといふよりは、アガサ・クリスティー原作の映画に出てくる殺人事件の犯人のやうだ。
何后がこんなにいいなんてなあ。
苦しげに倒れ伏してゐる董大后からは、恨みはあまり感じなかつた。
なんとなく予感してゐたことが起こつたといふやうに見える。
人形劇でさうだつたからさう見えたのかもしれない。
ケースの右側一番高いところに、弘農王と陳留王とがゐる。
向かひあふやうに立つてゐて、そのあひだに蝶が飛んでゐる。
左側にゐる弘農王は若干腰が引けてゐるやうにも見える。蝶から逃げてゐるのだらうか。一方で、両腕を広げてゐることもあつて、自分の方に向かつてきた蝶を待ち受けてゐるやうにも見える。
陳留王は片手をあげて蝶を追つてゐる様子だ。
弘農王が蝶を待ち受けてゐるとしたら、陳留王は弘農王の方に蝶を追ひ込んでゐるのだらう。
なんだかとても仲がよささうだ。
いままで見たふたりでこんなに仲がよささうなのははじめてだな。
大人たちは抗争にふけつてゐるけれど、こども同士はなかよくやつてゐる。
このケースはそんなやうすに見受けられる。
今回の展示では蝶のやうな小道具や大道具がとても効果的に使はれてゐる。
これまでもひとつのケースがまるごと絵のやうだつた。何場面かあるケースは絵巻かな。
それが今回はより強く感じられる。
以下、つづく。
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