「もうおやめなさい、終はつたのよ」
タティングレースのネクタイは、モチーフを三つつないだところで止まつてゐる。
四つめを作り始めたところで盛大に間違へてしまひ、途方にくれてゐるからだ。
リングとリングとをつなぎ忘れてしまつたのである。
それも、シャトル(Aerlit だから正確にはボビンだけど)に残つた糸を活用しやうとして間違へたので、かなりやる気が落ちてゐる。
「糸を無駄なく使はうとしたのに、失敗するなんて」と思つてしまふからだ。
せつかく「糸を大切に使はう」「節約しやう」と思つた気持ちが徒になつてしまつた。
かういふことは往々にしてある。
いいことをするつもりが裏目に出てしまふ。
糸の有効活用など、しなくてもよかつたのだ。
ちよつとの糸を惜しんだばかりに、時間が無駄になつてしまつた。
これまた正確に云ふと、失敗した直接の原因は残つた糸を有効活用しやうとしたせゐではない。
失敗したのは、リングとリングとをつなぎ忘れたからだ。
すなはち、注意力散漫だつたからである。
ではなぜ注意力散漫になつてしまつたのか。
糸を継がうとして、そちらに気を取られてゐたからだ。
普段どほりに作つてゐれば、こんなことはなかつたらうに。
かうなると、「らしくないことはしないに限る」んぢやないか、と思つてしまふ。
「機動戦士ガンダム」に「テキサスの攻防」といふ回がある。第37話、かな。
ララァといふ少女が主人公アムロに対して念(といふのかなあ)を送る場面で有名かもしれない。
このあと二人は戦ふことになるのだが、まあ、それはさておき。
やつがれが持ち出してくるくらゐだから、そこのところは眼目ではない。
「テキサスの攻防」ではマ・クベといふ男が死ぬ。主人公と戦つて殺される。
こどものころ見てゐて不思議だつたのは、このマさんといふかクベさんといふか、この男が大佐であることだつた。
だつて別段戦はないしさ。とりあへず「テキサスの攻防」までは。
しかも、なんか特別誂への軍服を着てゐるし。
長じて知る、マ・クベは鉱山などの資源を押さへてゐるのだつた。
「あー、前線で戦ふよりも後方で資源とか扱つてる方がエラいのね」と、悟るわけである。
そんなわけで戦はずしてえらくなつたマ・クベだが、でもやつぱり戦ふのである。
といふのが「テキサスの攻防」なのだつた。
軍服も特別誂へならモビルスーツ(ロボット。とかいつたら怒られてしまふのか知らん)も特注品のマ・クベ大佐だ。
特注品のモビルスーツで主人公に戦ひを挑む。
それを傍から見てゐて、主人公のライヴァルであるシャアが云ふ。
「あの男らしくない」
この回の中で二度くらゐそんなことを云つてゐたやうに記憶してゐるが定かではない。
いづれにしても「らしくない」ことをしてしまつたマ・クベは、わりかしあつさり主人公に倒されてしまふ。
死に際して非常に有名なセリフを残すのだが、そこは今回の話には関係ない。
さうか。
人間、らしくないことをすると死ぬのか。
死なないまでも、あまりよい結果にはならないのか。
またしても悟るのだつた。
深いな、「機動戦士ガンダム」。
といふ話はさておき、リングとリングとをつなぎ忘れたことに気がついたとき、脳裡をかすめたのはシャアの「あの男らしくない」といふセリフだつた。
らしくないことはしないに限る。
といふのはもちろん失敗したことに対する云ひ訳である。
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