奥さまは魔女であつたか
三月十二日に国立近代美術館フィルムセンターで「映画監督 三隈研次」特集のうち「暗闇仕留人」の回を見てきてまづ思つたことは、
時代劇のナレーションは芥川隆行にかぎるなあ
といふことだつた。
厳密にいふと、そんなことはないんだけどね。
「暴れん坊将軍」の若山弦蔵とか、はたいふべきにもあらず、といつも思ふし。
まづナレーションに注意がいつてしまつたのは、おそらくいまの大河ドラマのナレーションがなんともいはくいひ難いものだからだらう。
それともうひとつ、必殺シリーズのオープニングには、かういふいかした口上からはじまるものが多くて、しかもいづれをとつてもぐつとくるものだから、といふのもある。
芥川隆行もさうだし、中村梅之助とか古今亭志ん朝なんかも印象深いし、藤田まことが担当したこともあつたやうに思ふ。
かういふ前口上つて、いつからはじまつたものなんだらう。
といつて、別に歴史をひもとかうといふわけではない。
「仮名手本忠信蔵」の口上人形とか、そんな話をしたいわけぢやあない。
どちらかといふと、TV番組の前口上を意識するやうになつたのはいつからか、といふのが気になつてゐる。
個人的な話で恐縮だ。
必殺シリーズは明らかに前口上を意識するやうになつた作品のひとつだ。
でもおそらくその前がある。
やつがれが必殺シリーズを見るやうになつたのは、だいぶ大きくなつてからだからだ。
「人造人間キャシャーン」だらうか。
たつたひとつの命を捨てて
生まれかはつた不死身の体
鉄の悪魔を叩いて砕く
キャシャーンがやらねばたれがやる
いやー、納谷悟朗、いいよねー。
「キャシャーンがやらねばたれがやる」。
たまらんね。
必殺シリーズといふと、「銀河旋風ブライガー」の前口上も忘れられない。
柴田秀勝の渋くもノリノリのナレーションがまたいいんだ、これが。
時代劇といふことだと、「大江戸捜査網」の「死して屍拾ふもの無し」もいい。「大江戸捜査網」はその時々で前口上がなかつたり別のものだつたりするやうだけれども。
米国のドラマにもずいぶんとある。
「逃亡者」の「リチャード・キンブル、職業: 医師」とかね。
「トワイライト・ゾーン(ミステリー・ゾーン)」の「There's the fifth dimention.」とか。
「ナポレオン・ソロ」には前口上といふか、ソロとイリヤとがやりとりするオープニングがあつた。
「宇宙大作戦(スター・トレック)」の前口上は、吹き替へだと若山弦蔵なんだよねえ。これがまたいいんだ。もちろん、もとの「Space... the final frontier.」もしびれるけれども。なんで若山弦蔵にしたのかね。まさに Nice job! だ。
と、いろいろ考へていくうちに、もしかすると一番最初にかうした前口上に出会つたのは、すくなくともこれを前口上として意識するやうになつたのは、「奥さまは魔女」なんぢやないか。
そんな気がする。
「ごく普通のふたりはごく普通に恋をし、ごく普通の結婚をしました」といひながら「でもただひとつ違つてゐたのは、奥さまは……魔女だつたのです」って、全然ごく普通ぢやないぢやん!
などとは当時は思はず、「奥さまはサマンサ、旦那さまはダーリン」などと覚えては、いつかこの前口上使ふ機会をうかがつてゐたものだつた。
使ふ機会は未だ来、だつたりはするのだが。
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