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Thursday, 17 March 2016

障子礼讃

さうです。土曜日に見てきた「暗闇仕留人」の話です。

書かうと思ふとどうも「キャッキャウフフ」的になりさうで怖いのだが、まあ、そこはそれ、だ。

「キャッキャウフフ」でもいいのかもしれないけれど、そこはやつぱり恥づかしいぢやあありませんか。

といふわけで、障子である。
昨日は庄司ね。

土曜日に国立近代美術館フィルムセンターで「映画監督 三隈研次」特集のうち「暗闇仕留人」を見てきて、「やつぱり障子はいいねえ」としみじみしてしまつた。

谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」的な意味ではなく、ね。
いや、「陰翳礼讃」的な意味での障子もいいけどさ。

必殺シリーズのクライマックスは夜と相場が決まつてゐる。
暗い闇の中に障子があつて、その向かうに影が過ぎる。
光源はどこだらう、と思ふが、それは無粋だらう。

標的は、影に気づかないこともある。
土曜日に見てきた回もさうだつた。
標的は屋内にゐて、障子の向こうを仕留人の影が過ぎる。
でも標的は気づかない。
一瞬「ん?」と思つて、そのままだ。
そして、数瞬後には殺されてしまふ。

この「影だけが過ぎる」がいいんだよねえ。
思はせぶりなところもいいし、はつきりと描かないところもいい。
ちよつと背筋のぞくぞくする感覚もある。

背筋がぞくぞくするのは、怪奇映画の常套手段だからだらうか。
化け猫映画なんかさうぢやああるまいか。
障子の向かうに行灯の明かりがほの暗く見えて、その脇に油をぺろ~りぺろ~りとなめる影が浮かび上がる。
人か。
猫か。
やつぱり人か。
わかつちやゐるけど、想像をかき立てられてぞくりとする。

いいなあ、障子。
思はせぶりな演出にかかせないよね。
たまらん。

「暗闇仕留人」を見てあらためて闇の濃さを思つたりもした。
必殺シリーズは結構どの番組もさうだつたやうに思ふのだが、闇が濃い。
土曜日に見てきた回も、一番の仕留の場面では照明は蝋燭だけだつた。
実際に蝋燭だけだつたらもつと暗いのだらうとは思ふ。
それでも普段の明るい室内照明になれてゐる身にとつては十分な暗さだ。
昼間に日光の差し込む部屋で見たらなにも見えないんぢやないかと思ふくらゐ暗い。
光のあたつてゐる部分より影の部分の方が多い、そんな絵が動く。
見せたいのか見せたくないのか、いや、やはり見せたいのだらうその絵がまたいいんだ。

去年のいまごろ、やはりフィルムセンターで川本喜八郎の人形アニメーション作品を見た。
普段はDVDなどで見てゐる「花折り」や「火宅」、「死者の書」をフィルムで見る機会などさうさうない。
フィルムの劣化もあるのかもしれないが、いづれもDVDで見るより影が暗く感じられた。
ほんたうはかういふ絵だつたんだ。
さう思つた。

デジタルの方が画像が鮮明になる、と、TVコマーシャルなどでは云つてゐるやうに思ふ。
いや、それとも違ふのか、デジタルになるとのつぺりしてしまふから、それでよけいに高画質なものを追求してゐるのだらうか。
いづれにしても、いまでは人の顔の毛穴まで見えるやうな高画質なTVがあるといふ。
それは、生放送だとさうなる、といふ話なのかなあ。
高画質なら、闇もまたフィルムの昔のやうに暗く濃くなるのだらうか。

さういへば、以前「黒をもつと黒く」とかいふやうなTVのコマーシャルを見たことがある気がする。
黒はむづかしいのかな。
染色でも、真つ黒く染めるのはむづかしいといふ話を聞いたことがある。

もひとつさういへば、最近の役者からはあまり闇を感じない気がする。
父と子と比べたときに、圧倒的に父親の方が闇が濃い。
それは年の功なのだらうか、とも思ふが、その父親が子どもとおなじくらゐの年齢だつたときのことを思ふと、必ずしもさうともいへない。
生来の持ち味なんぢやあるまいか。

とはいへ、年とともに闇の深くなつてゐる役者もゐるので、一概にはいへないか。

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