飯田市川本喜八郎人形美術館 特異なキャラクター 2015
飯田市川本喜八郎人形美術館では十二月五日に展示替へを行つた。
今回はその新展示のうち、「特異なキャラクター」を書く。
展示室の一番奥向かつて左手のケースが「特異なキャラクター」のケースだ。
左から于吉仙人、左慈、曹豹、華陀、紫虚上人、督郵、張松の順に並んでゐる。
「特異なキャラクター」といふのもちよつと妙な題名ではある。
「特異」を辞書で引いたら「普通と特にことなつてゐること(さま)」と書いてあつた。
それを云つたら玄徳なんかまさに「特異なキャラクター」なのではあるまいか。
だつて耳たぶが見えるくらゐ大きくて両腕が膝にとどくくらゐ長かつたわけでせう。
呂布な異様な強さや赤兎馬の異様な速さなども特異だ。
ここでいふ「特異」は、これといつた類に属していない、といふ意味なのだらう。
「特異」といふ性質で集まつた人々なので、互ひにどうかうといふことはない。
ほかのケースのやうに隣同士で話をしてゐるといふこともないし、周囲の人との関はりあひもまつたくない。
その人物らしいやうすで展示されてゐるともいへる。
于吉仙人は、人形劇のときは杖を持つてゐなかつたんぢやないかなあ。
さうは思ふが、飯田で会ふときは大抵手にしてゐる。
ケースの左前方にゐる。
以前も書いたやうに、于吉上人の襟の柄と程昱の前掛け(といふのか)の柄がおなじだ。今回は照明の加減で地の色が違ふやうに見えたけれど、おそらくおなじものだと思ふ。
よくある柄なので、違ふ生地から取つた可能性もある。
衣装といへば、于吉仙人の衣装はいい感じにやれてゐる。これは紫虚上人さうだな。
出番は少なかつたのに、ぱりつとして見えない人形の一人である。
于吉仙人の右後方高いところに左慈がゐる。
左慈は今回目が光るやうになつてゐる。美術館の方にお願ひすると光らせてくれる。
左慈は、于吉仙人や紫虚上人と違つて着るものはきちんとしてゐる。すくなくともほつれてゐるところは見受けられない。
于吉仙人と紫虚上人、それと左慈との違ひといふのはなんだらう。
天下を狙はうとしてゐるか否か、か。立身出世を求めてゐるか否かといはうか。
天下を手中にしやうとしてゐる人は身なりも気にしないといけないのかもしれないなあ。
曹豹は左慈の右前方に座り込んでゐる。
おそらく、曹豹のカシラはもうこの青あざをこしらへたものしかないのに違ひない。
撮影順がうまくできてゐて、張飛に殴られた後の分が最後に撮られたものなのだらう。
それで元々の普通の顔の上に青あざをあらはす藍がほどこされたのに違ひない。
前回曹豹を見たときは、なんだか可愛いな、と思つた。
張飛にさんざんな目に合はされて床にへたり込み、「もう勘弁」といふやうなやうすだつた。それは今回もさうなのかな、と思ひつつ、今回は「もう勘弁」といふやうすがないんだな、多分。
今回の曹豹はすでに張飛の去つたあと、「この恨み晴らさでおくべきや」と思つてゐるところなのかもしれない。
それで可愛いやうすに見えないんだらう。
華陀はこの面々の中にゐるとなんだか浮く。
見たところ普通の人だからだ。
しかも、なんだかとても人のよささうな福々しいお爺さんだし。
お医者さんは痩せた人よりちよつとふつくらした人の方がいいといふ話がある。
その方が患者が安心するからださうな。
この華陀を見たら大抵の患者は安心するだらう。
浮く、と書いておいてなんだが、華陀を見るとなんとなくほつとするのも確かだ。
特異といへば華陀は医師としては特異だらうけれどもさ。
なにしろお屠蘇の元の屠蘇散を考へ出したのは華陀だといふ話もあるくらゐだし。
紫虚上人は今回も立つてゐる。
前回の展示でも立つてゐて思はず「紫虚上人が立つてゐる!」と驚いた。
人形劇に出てゐた紫虚上人はずつと座つたままだし、これまでやつがれが飯田で見たかぎりでは展示のときも座つたままだつたからだ。
立てるんだー。
紫虚上人も于吉仙人とおなじく衣装がところどころほつれてゐたり穴があいてゐたりして、身なりにかまはぬ達観した人といふ感じがする。
自分の中では「特異なキャラクター」といふと、この紫虚上人、左慈、于吉仙人、管輅だ。
特異といふよりは仙人じみてゐるといふか(于吉は仙人なのだらうけど)、超自然的な力を遣ふといふか、そんな感じだ。
考へてみたら華陀の医術も超自然的な力のやうなものだつたのかなあ。理にはかなつてゐるんだらうけれど、全然わからない人から見たら魔術にしか見えなかつただらうといふ気はする。
督郵も曹豹よろしく床に座りこんでゐる。
こちらは顔は上を向いてゐて、なにか文句を云つてゐるかのやうだ。
まだ文句を云ふ余裕があるといふことか。
督郵には「いいものを着てゐる」といふ印象がある。
番組開始後かなり早い時期に出てきて、しかも一緒に出てゐたのが玄徳・関羽・張飛だからかもしれない。
登場場面が少なくて飯田で展示される機会も限られてゐるから、それでいいものに見えるといふ話もある。
実際督郵の衣装は明るい色合ひで、袖に宝尽くしによく似た柄があしらはれてゐるのでなんとなくいいのに見えるのかもしれない。
もう一度、督郵の口の動くのを実際に見てみたいなあ。
張松はケースの右端の高い位置に立つてゐる。
両腕を広げて、なにか話してゐるかのやうだ。
人形劇でいふと曹操の前で「孟徳新書」を延々と暗唱してゐるところか。
あるいは玄徳の前で蜀をとるべきと主張してゐるところか。
ちよつとえらさうにも見えるから、曹操の前で持論を展開してゐるところかもしれない。
前回はさう感じなかつたが、今回の張松はとても張松らしい感じがする。
自分の中の張松のイメージはかうなんだな、といふことがよくわかる。
以下、もうちよつとだけつづく。
紳々竜々と黄巾の乱はこちら。
「宮中の抗争」についてはこちら。
「連環の計」についてはこちら。
「玄徳の周辺」その一はこちら。
「玄徳の周辺」その二はこちら。
「曹操の王国」その一はこちら。
「曹操の王国」その二はこちら。
「江東の群像」はこちら。
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