待ち行列とあみもの
_Domino Knitting_ に掲載されてゐる Striped Shawl は、先週少しだけ進んだ。
思はぬ休みがあつたからだ。
木曜日に、台所の水道の蛇口が壊れてしまつた。
それで急遽休むことになつた。
業者が即来てくれて即直ればそのまま出勤するつもりでゐた。
最初は昼ごろには来る、といふ話だつた。
昼ごろ、突如漏水事故があつたとかでそちらを優先せねばならず、いつこちらに来ることができるかわからない、といふ旨の電話があつた。
いつ来るとも知れぬ業者を待ち続けること数刻。
結局、蛇口が直つたころには午後七時半になりなんとしてゐた。
やれやれ。
一日無駄になつてしまつた。
待つてゐるあひだ、ほかにすることもないので録画した番組を見ながら編んでゐた。
ほかにすることがないときにすることといつて、あみものほど最適なものはない。
とくに Striped Shawl のやうに mindless knitting と呼ばれるやうなものはなほさらだ。
Striped Shawl は段数を数へながら編む部分もあるので、完全に mindless knitting といふわけではない。
それを云つたら「完璧な mindless knitting」などさうさうあるものではないので、ここではおく。
録画した番組を見ながらひたすら編む。
業者からの電話を待つてゐるし、来られるやうなら即なほしてもらひたい。だから出かけるわけにはいかない。
編むくらゐしかやることはない。
ではあみものは進んだか。
残念ながら、時間に見合つたほどには進まなかつた。
心にかかることがあるからだ。
ここにもたびたび書いてゐる。
Yarn Harlot を読んでゐると、しばしば「Knitting keeps people sane.」といふやうな話が出てくる。
たとへば病院、銀行、空港などで待つてゐる最中にあみものをする。
もちろん、好きだから編む。
でもあみものにはもうひとつ効用がある。
待たされてゐるあひだ、いらいらしなくて済む。
まつたくしないことはないかもしれないが、なにもすることがないよりはましだ。
やつがれもずつとさう思つてゐた。
医者に行つて待たされてゐるあひだ編んだり結んだりする。
外出するときは不意の「待たされ」に対応するためにかならず編むものかタティングシャトルを持ち歩く。
甚だしいときには定期券発行の列で並んでゐるときに編んでゐたこともある。もちろん立つたままだ。
定期券発行の列はいい。
自分がだいたい何番目にゐていつごろ順番が回つてくるか、なんとなくわかるからだ。
前の客によつては時間がかかつたりすることもあるけれど、それは見てわかる。
病院ではさうはいかない。
銀行もさういふ場合が多い。
自分が何番目でいつごろ呼ばれるのか、皆目見当がつかない。
自分より前からゐた人々がほぼゐなくなつたから自分の番が来るかと思ふと、さうでもなかつたりする。
いつまで待たされるのかわからない状況で待つてゐなければならない。
これがつらい。
病院に行くと必ずといつていいほど不調になるのは、この「いつ終はるとも知れぬ状況で長いことまたされる」のが原因ではないかと思つてゐる。
ほかに理由を思ひつかないからだ。
たとへ待つてゐるあひだ本を読んだり編んだり結んだりしてゐても、だ。
どうやらあみものはやつがれの正気を保つてくれたりはしないらしい。
いや、正気は保つてくれてゐるのか。
ただ、心身の健康には役立たないこともある。
さういふことなのだらう。
そんなわけで、Striped Shawl は一列目があとすこしで編み終はるところまできた。
この秋冬中にできあがればいいなと思つてゐる。
希望的観測ではある。
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