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Wednesday, 02 September 2015

戀とはどんなものか知らん

お前が歌ふな、ケルビーノ!
といふ話はさておき。

「五右衛門vs轟天」といふ芝居のことはとても気に入つてゐるし、好きだとも思つてゐる。
でも個々の役者についてはどうかなあ。

先日ワークショップで洞察について学んで来たことは書いたとほりだ。
中に、「なぜ」と五回問うて原因を追究しろ、といふ話があつた。

問うてゐると、だんだんわけがわからなくなつてくる時がある。
果たして自分はほんたうにこれが好きなのか、と、気持ちがゆらいでくるのだ。

長いこと、自分にはあんまり好きなものとかないんだな、と思つてゐた。
世の中を見渡すと、なにかを好きになつた人といふのは、みなとても熱いからである。
ああいふ熱さ、情熱のやうなものつて、あんましない気がするんだよね、自分には。

劇団☆新感線を見に行くきつかけがなんだつたのか、すでによくわからない。
劇団の芝居を見る前に、古田新太と右近健一とは野田秀樹の芝居でそれぞれ見たことがあつた。
古田新太に関しては、さらにその前にテレビの深夜番組で一度見かけたことがあつて、なぜか記憶に残つてゐた。
おそらく、たまたま「ぴあ」で発売開始の記事でも見たんだな。
それでチケットを買つて行つてみた。

大変おもしろく見て、その話を職場の新感線大好きな先輩に話したところ、舞台のヴィデオを貸してくれた。
見てみたら、一人なんだかすごく気になる人がゐる。
自分の見た芝居には出てゐなかつた。
村木よし子だつた。
これは舞台で見たいぞ、と思つて次の芝居にも行つた。
以降つづいてゐる。

それでは自分は村木よし子が好きなのだらうか。
嫌ひではないと思ふ。
舞台に出てくるとうれしい。
歌も好きだ。
山本カナコとハモつたときのあの空間の広がる感じはいつ聞いてもいい。
でも、積極的に好きかと訊かれると返答に窮する。
考へてみたら、劇団外の芝居に出てゐるところを見たことがない。

劇団☆新感線の役者で劇団外で見たことがある人はそんなに多くない。
上にあげた古田新太と右近健一以外には、橋本じゅんと粟根まことくらゐかな。
いづれも「見に行つたら出てゐた」といふ感じで、「この人が出てゐるから見に行つた」といふわけではない。
古田新太だけは、古田新太だつたらおもしろいかもしれないと思つて見に行つた芝居が二つある。

それでは自分は古田新太が好きなのだらうか。
嫌ひではないと思ふ。
こんなにやうすのいい役者もさうはゐない。
主役嫌ひでならしたやつがれが、古田新太の演じる主役はそんなに嫌ひではない。
でも、積極的に好きかと訊かれると返答に窮する。

さうやつてつきつめていくと、「好き」つてどういふことなんだか、よくわからなくなつてくるのだつた。

以前、坂東八十助(当時)についてここにも書いたことがある。
納涼歌舞伎で丸本の大役を初役でやる時に、必ず二度見に行つた話だ。
そのころは、別段八十助が好きだとは思つてゐなかつた。
丸本が好きだし、初役で演じるのだつたらまづは初日付近で一度見たい。そして楽の近くでもう一度。
さう思つてゐた。
それが、「忠直卿行状記」を見たときに、はじめて好きであることに思ひ至つた。
すでに書いたことで恐縮だが、八十助の演じる忠直卿が愛妾(玉太郎時代の松江)に向かつて「あれを見よ」と遠くを指し示す、その指の先を思はず追つてしまつた。
そこには客席があるばかりだつた。
照れ苦笑ひをひとり笑ひ、「ああ、きつと自分は八十助が好きなんだな」としみじみ思つた。

八十助といふか三津五郎では、おなじやうなことが何度かあつた。
ほかの役者ではないことだ。
たまに勘九郎でこれに近いことがあるかな。でも指さした先をうつかり見てしまつた、なんぞといふことはいまだかつてない。
三津五郎だけなんだよなあ、いまのところ。

と、つらつら考へるに、自分は単に「好き」といふ気持ちを抑制してゐるだけなのかな、とも思ふ。
好きになるといろいろつらいからさ。
先月は「棒しばり」と「芋堀長者」とが故人をしのぶ演目だつたのらしいけれど、「逆櫓」を見ても「京人形」を見ても思ひ出すことばかりで、でもそんなのは自分だけらしくて、それもまたつらさをいやましにした。
八十助の樋口、好きだつたんだけどな。
絶対もう一度見たい。
さう思つてゐたんだけどな。

こんな思ひをするくらゐなら、もう好きになんかならなくていいよ。
と、昭和歌謡のやうなことを考へたりもする。

やつがれの「好き」はその程度だ。

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