同好の士
アクセントカラーのストールは、もうちよつとで三百段といふところで止まつてゐる。
先週は帰宅後に編み棒を手にする日が少なかつたからだ。
なぜといつて……うーん、やはり暑いから、かなあ。
この週末といふか、金土日と、出かけまくつてゐた。
金曜日は、渋谷ヒカリエにある渋谷区防災センターで人形劇の「平家物語」の上映会に行つた。
ほんたうは防災センターとおなじ階にある川本喜八郎人形ギャラリーで川本プロダクションの方々が人形の遣ひ方を実演したり遣はせてくれたりするガイドがあつたはずなのだが、今年はなかつた。
緊急事態が発生したせゐである……いふ話はまたの機会に譲るか。
金曜日はその前後にタコベルに行つてみたり、早川書房に行つてパブ・シャーロック・ホームズの帰還に立ち寄つたりしてみた。
土曜日は歌舞伎座に行つて第二部を見てきた。「逆櫓」と「京人形」である。全三部の中で一番歌舞伎らしい演目が並んでゐる。
せつかくなので、歌舞伎座に行く前にヒカリエに行つたのはよしとして、その後、東京駅に出て昼食を取るつもりがいはゆる「昼食難民」になつてしまひ、そのまま歌舞伎座のそばまでさまよひ歩いてしまつた。
地下が多くて助かつたけどな。
日曜日は横浜人形の家に行き、赤いくつ劇場で平松加奈ミニライブを聞いてきた。
横浜人形の家では九月末日まで「ホームズ&ワトソン 推理の部屋」展を開催してゐる。
NHK教育(とは今は云はないのかもしれないがやつがれは云ふ)で放映された「パペットエンターテインメント シャーロックホームズ」の人形たちが展示されてゐる。
平松加奈はこの番組の音楽を担当してゐた。番組内では弦楽四重奏にパーカッションだつたり時にオーケストラだつたりしたBGMをヴァイオリン一本とパーカッションだけで演奏するといふライブだつた。
ひとつひとつについては機会を改めて書くつもりでゐる。
書かないかもしれないけど。
金土日と、同行者はゐなかつた。
ひとりで行つてきた。
誘ふ相手もゐないしね。
赤いくつ劇場で開演を待ちながらふと思ひ至つた。
人形劇の「シャーロックホームズ」は好きだけれど、同好の士はゐない。
放映当時も、「昨日のシャーマンは可愛かつたねー」だとか「ウィギンズをねづみにするとは……」とか語り合ふやうな相手はゐなかつた。
それを云つたら、歌舞伎以外はこの金土日に行つたものはみんなさうなのではなからうか。
なからうか、ぢやなくて、みんなさうだ。
歌舞伎だつて「一緒に行かう」はほとんどない。
ひとりで行つてひとりで見てひとりで帰る。
それが常態である。
考へてみたら、「平家物語」はその最たるものだ。
幼稚園のころ「牛若丸と弁慶」といふ本が好きだつた、といふ話はここでも何度か書いてゐる。
その後も三冊くらゐおなじやうな内容の本を買つてもらつた。
こども向けの「平家物語」とかね。
当時はものすごく好きで、でも周囲に同好の士はゐなかつた。
「いけずきとするすみがねー」だとか「維盛、ダメダメだよね」とか語り合ふ仲間がゐなかつた。
そのうち源平合戦の話が好きだつたことを忘れて、歌舞伎に出会つて思ひ出すことになる。
同好の士がゐたらどうだつたらう。
ずつと好きでゐて、ちやんと大人向けの本を読んだりしたらうか。
したんぢやないかな。
だつて話の種になるしさ。
つまり、やつがれの経験だとか知識だとかが広がらないのは同好の士がゐないままこれまでやつてきてしまつたからではないか。
同好の士を探すことも、周囲を巻き込んで同好の士を増やすこともせずにゐたからではあるまいか。
赤いくつ劇場の客席で、そんなことをぼんやり考へてゐた。
あみものはどうだらう。
あみものには同好の士がゐる。
ゐるけど、会つてあみものの話とか、そんなにしない気がする。
相手や自分が手編みのものを身につけてゐたらそれの話はするだらうし、「今年は細めの毛糸がはやつてるね」くらゐのことは云ふかもしれない。
でもほかにどんな話をするのか思ひつかないなー。
いま編んでゐるものの話はするか。
さうしたら Ravelry で人気のあるものの話とかもするかもしれない。
「次にこれ編むつもりなんだけど」「えー、それ、編んだよ」「え、糸はどうした? 色は?」「糸は指定糸だけど色は変へた。あと針も」とか、さういふ話はするかな。
編み物の同好の士と会ふことにしたら、ストールも少しは進むだらうか。
会ふときに羽織つて行かう、とかさ。
あー、でもあみものの同好の士は目が肥えてゐるから、さういふところにしていくのはちよつと気が引けるな。
やつぱり進まないかも。
それにあみものつてひとりでするものだしね。
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