とてもよいのだけれども
歌舞伎座に行つて六月大歌舞伎の昼の部を見てきた。
やつぱり、「新薄雪物語」、好きだなあ。
といふ話は、以前書いてゐる。
今回、「花見」の薄雪姫は梅枝、「詮議」は児太郎、あとは米吉と、その場によつて演じる役者が違ふ。
「花見」の場で、園部左衛門に手渡す色紙に「谷蔭の春の薄雪」と書き記す、梅枝の薄雪姫の幸薄さうなはかなげなことといつたら、署名そのものだ。
薄雪姫ぢやなくて薄幸姫だねえ。
「詮議」の薄雪姫もお姫さまらしさでは負けてはゐない。
ここで、その前の場で薄雪姫の手による色紙が謀反の証拠として提出されるのだが、「いや、いま書いたらまた手蹟が違ふから」と思つてしまふのは、まあ、仕方のないことであらう。
競演はおもしろいけれど、ちよつと考へてほしいなあ、と思ふ所以である。
演じる役者が悪いわけではない。
夜の部の薄雪姫もとても楽しみだ。
今回昼の部だけ先に見に行つたのは、播磨屋と松嶋屋とが一緒に出るのが「花見」だけだからだ。
しかも双方ともに悪。
かたや世を拗ねた不良息子、かたや国崩しの大悪人。
異なる悪の共演。
いいわー、悪。
吉右衛門演じる団九郎と仁左衛門演じる大膳とのやりとりだけで、余は満足ぢやよ。
「新薄雪物語」のいいところは、いろんな役どころの登場人物が出てくるところだ。
ゆゑに大顔合はせに向いてゐる上、若手も活躍できる。
といふ話も以前書いてゐる。
しかも「花見」は桜の花盛りの清水寺を舞台にしてゐる。
いきなりうつくしい舞台面を見ることができるわけだ。
つかみは万全。
などといひつつ、はじめて歌舞伎を見るといふ人はつれては行かないと思ふがね。
つれていくとしたら、「花見」の場を借りて来た「青砥稿花紅彩画」だらうなあ。
なぜ自分がいいと思ふ演目につれて行けないのか。
そんなことも考へてしまつた昼の部であつた。
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